名古屋大学と筑波大学は,電磁波強度をダイヤモンドNVセンターの量子スピン状態を介して広視野光学顕微鏡上に像を取得することにより,高い空間分解能での電磁波イメージングに成功した(ニュースリリース)。
量子センシングのための材料として期待されているダイヤモンドNVセンターは,ナノメートルサイズからスケーラブルなセンシングと光によるダイヤモンドNVセンターの量子スピン状態の読み出しができる。
研究グループは,ダイヤモンド中の表面近傍に形成した多数のダイヤモンドNVセンターにマイクロ波パルスシーケンスを照射してスピンロッキングを行ない,電磁波強度をダイヤモンドNVセンターの量子スピン状態を介して広視野光学顕微鏡に像を取得することにより,電磁波強度分布を高感度イメージとして可視化することに成功した。
具体的には,マイクロ波平面アンテナからダイヤモンドに照射するマイクロ波駆動パルスの強度を特定の値に設定して,検出する電磁波の周波数を選択するスピンロッキングにより,量子スピンは周囲の環境の電磁波ノイズから遮断され,量子コヒーレンスが保たれるコヒーレンス時間を100倍以上に延⻑した。その結果,量子センシングの感度が向上し,マイクロ波パルスシーケンスによって選択された周波数の電磁波を高感度に検出することが可能となった。
実際の測定環境下では,測定視野内においてマイクロ波強度の分布が測定感度の低下を招く。そこで,マイクロ波パルス強度エラーによる影響を緩和するマイクロ波複合パルスを用いることでマイクロ波パルス強度エラーによる影響を低減し,測定精度が向上することを実証した。
電磁波の強度分布が転写された量子スピン状態を広視野光学顕微鏡上に像として光学的に取得するため,ダイヤモンドNVセンターを十分高い密度で二次元的に形成してセンサとして用いた。
それぞれのダイヤモンドNVセンターに読み出しのための配線をする必要はなく,電磁波イメージの画素数は,センサの配線の本数で制限されなくなった。さらにダイヤモンドNVセンターのサイズは0.2nm以下と小さく,センサと測定対象物をナノメートル程度と極めて近接できるため,測定対象物から発せられる電磁波をセンサに高い空間分解能で転写できる。
その結果,検出される電磁波の解像度は光学顕微鏡の解像度で決まり,電磁波のイメージング手法としての優れた特徴を実証した。これにより金属薄膜表皮効果による電磁波の強度分布が明らかにされるとともに,このような金属薄膜の膜質によって電磁波シールドの効率がどのように影響を受けるかの研究が可能となったとしている。