東京農工大学とロームは,超高屈折率・無反射な新材料(メタサーフェス)により焦点距離1mmの極短焦点な平面レンズ(メタレンズ)を開発した(ニュースリリース)。
テラヘルツ波は,5G高速無線通信で使用されているミリ波よりも高い周波数の電磁波で,6G超高速無線通信などでの利用が大きく期待されている。
共鳴トンネルダイオードは,光源としてテラヘルツ波を室温で放射できる。共鳴トンネルダイオードから放射されるテラヘルツ波を制御するためなどに用いられる従来の市販のテラヘルツレンズは,焦点距離が短くても10mm程度で,形状も厚さ10mm程度のドーム型だった。そのため,コンパクトで高指向性なテラヘルツ発振器の製品化に向け,極短焦点で薄い平面レンズが求められていた。
今回,農工大研究グループが独自に開発した超高屈折率・無反射な新材料(メタサーフェス)による焦点距離1mmの極短焦点な平面レンズ(メタレンズ)を,ロームの0.3THzのテラヘルツ波を放射する発振器の共鳴トンネルダイオードに搭載し,パワー密度3倍の高指向性化を実現した。
平面レンズは,直径が2mmの円形構造で,厚さ23μmのシクロオレフィンポリマーフィルムの表と裏の両面に,厚さ0.5μmの銅のワイヤーを対称に配置している。平面レンズのF/D比と開口数NAは,それぞれ0.5と0.7。シクロオレフィンポリマーフィルムの両面に配置した銅のワイヤーがメタアトムとして動作し,屈折率がメタレンズの中心部から端部に向けて低くなるようになっている。
メタレンズの中心部の屈折率は18.5で,シリコン(屈折率3.4)に比べて5倍以上と非常に高く,メタレンズの端部の屈折率も3.5と高い。この屈折率の勾配を利用して,共鳴トンネルダイオードから発振された放射状のテラヘルツ波を,指向性の鋭い平面波に変換した。
これについて,パワー密度3倍の高指向性化を確認した。yz面とxz面のビーム半値幅は,共鳴トンネルダイオード単体ではそれぞれ32度と42度だが,メタレンズによりそれぞれ18度と14度まで鋭く絞れた。
今回,極短焦点な平面形状のメタレンズにより,テラヘルツ発振器の高指向性化を実現した。取り扱いやすくコンパクトで高指向性なテラヘルツ発振器の製品化に向けた第一歩で,6G超高速無線通信,各種センサ機器,X線に代わる安心安全なイメージングなどでの展開が大きく期待されるとしている。