東北大学,早稲田大学,産業技術総合研究所,北陸先端科学技術大学院大学らは,リチウム電池正極材料の一つであるニッケル−マンガン酸リチウム粒子内部の,複数の不均一な構造の可視化に成功した(ニュースリリース)。
より高性能・高効率なリチウム電池正極材料開発のためには,材料の構造・機能の関係性を試料内部深くまで高解像で明らかにする手法
が望まれている。
放射光X線計測は電子顕微鏡よりも厚い試料の内部まで観察できる。中でもX線の可干渉性(コヒーレンス)を利用したイメージング技術であるX線タイコグラフィは,非常に高い空間分解能と感度を実現できる次世代のX線顕微法であり,放射光施設を中心に利用法の研究が進められている。
これまで研究グループはX線タイコグラフィ法に,X線吸収分光分析法であるX線吸収微細構造(XAFS)を組み合わせた「タイコグラフィ−XAFS 法」を開発し,数十nmオーダーの空間分解能により,不均一な試料中の微小領域の化学状態を調べられるようになった。
研究では,この「タイコグラフィ−XAFS 法」をリチウム電池正極活物質であるスピネル型ニッケル−マンガン酸リチウム(LNMO)粒子に適用し,データマイニングの手法を駆使して、不均一な内部構造の可視化を検討した。
観察は,大型放射光施設SPring-8の理研ビームラインBL29XUで行なった。Ni及びMnの2元素の各K殻吸収端近傍のX線エネルギー点で,LNMO粒子を2次元走査しながら回折パターンを測定し,位相回復計算を実行することで,Ni及びMnの各K殻吸収端でそれぞれ80nm,60nmの空間分解能の再構成振幅・位相画像と対応するXAFS及び位相スペクトルを得ることに成功した。
再構成画像から得られるXAFS及び位相スペクトルを分析することで,Ni及びMnの元素組成比分布や価数分布粒子全体の電子密度分布を得ることができる。
これらの各化学状態パラメータの空間分布は,LNMO粒子内に組成・化学状態に複数の要素が不均一に分布していることを示唆するもの。この結果,統計的に3つの相関性分布G1,G2,G3にグループ分けすることができた。
G1,G2,G3各グループは,それぞれ規則型,不規則型,不純物相と予想される構造分布をもち,主成分であるG1粒子中心部,その他は粒子が外郭部に分布する傾向があるということが示唆されたという。
現状では,測定粒子は電池として働く前の止まった状態だが,研究グループは,正極活物質粒子が実際に電池として働いている“その場(オペランド)”でのタイコグラフィ-XAFS計測・データクラスタリングを目指すとしている。