東京大学と仏パリ大学は,二次元物質の代表例である遷移金属ダイカルコゲナイドで現れる電荷密度波と呼ばれる量子相にテラヘルツ波パルスを照射すると,新しい絶縁体的な状態へと瞬時に変化することを発見した(ニュースリリース)。
光誘起相転移は,物質相の成り立ちの起源を解明するという基礎科学や,光スイッチやメモリ,センサといった応用からも高い関心を集めてきた。
研究グループは,光による加熱効果を極力抑えて量子相を操作する新たな手法として,低温の電子相の秩序の度合いそのものに働きかける方法を発案した。この研究では,物質中の電子の密度が波のように周期的に濃淡を示す電荷密度波相と呼ばれる状態に着目した。
このような状態を示す二次元物質群の代表例として,遷移金属ダイカルコゲナイド3R-Ta1+xSe2がある。今回作成した厚さ16nmの試料では,絶対温度100K以下で金属相から電荷密度波相に相転移し,さらに低温の2Kで超伝導になる。
研究グループはこの物質が電荷密度波相にあるときに,「電荷の密度の波」の振幅を直接,テラヘルツ波で大きく揺らす実験を行なった。この「電荷の密度の波」の振動は,結晶格子の原子配列と結びついていて,テラヘルツ波の照射で「電荷の密度の波」の振幅が増減すると同時に,ある特定の格子の振動が引き起こされる。
このとき、電子の状態がどのように変化するかを超高速の光の技術を用いて1兆分の1秒以下の時間領域で調べた。その結果,テラヘルツ波パルス照射による振幅モードで揺らすと,金属的な電気伝導特性を示していた状態から,部分的に絶縁体的な状態へと変化することが明らかになった。
テラヘルツ波パルスを照射してから0.5ピコ秒経過後には,金属的な性質を反映する電気伝導度の値がある周波数以下で減少していることがわかった。この減少は,もともと金属的な電気伝導を担っていた電子集団の一部が失われてしまったことを示しており,部分的な絶縁体状態が生じたことを意味するという。
この結果は,電荷密度波の秩序の度合いそのものに直接働きかけることにより,熱平衡状態では隠れていた新たな相が浮かび上がってきたことを示しており,電子集団が示す量子相を超高速に制御する新たな手法を提示したものといえるという。
研究グループは,この成果が物質相探索の新しい研究手法に発展するとともに,量子物質を用いた超高速で動作する電子素子の新しい動作原理となることが期待されるとしている。