中部大学,北海道大学らの研究グループは,中性子のスピンを測定する実験で,2019年に考案されたミクロな物体の測定誤差を正確に定めるための新しい理論を検証することに成功した(ニュースリリース)。
ミクロな物体を扱う量子力学の根幹をなす不確定性原理では,電子などの素粒子は,その位置と運動量の両方を同時に正確に(誤差ゼロで)測定することができず,必ず本来の値との誤差が生じるとされている。このため,量子現象の理解には,測定の誤差を正確に捉えることが必要となる。
しかし,量子力学における測定誤差の従来の計算式には,不正確な測定でも誤差がゼロになることがあるという問題点が知られていた。ただ,理想的な測定によって得られるべき真値が測定状況に依存するという量子力学の特質から解決不可能な問題と考えられてきた。
2019年に研究グループの小澤特任教授(中部大学)は,量子測定誤差に関する新しい理論を展開して,そのような問題点を克服する正しい誤差の計算式を理論的に導いた。
今回,研究グループは,オーストリア ウィーン工科大の研究用原子炉で最先端の中性子ポラリメータを用いて中性子のスピンを測定し,いくつかの量子測定に対してその測定誤差の決定を試みた。
そこでは,パラメータ掃引法と呼ばれるパラメータに関して初期状態を掃引する手法を用い,まず,隠れた誤差の出現を確認した。その上で,量子測定の隠れた測定誤差を定量的に決定することを試みました。実験の結果,物理的な状況判断との整合性が取れた量子測定の誤差の同定ができたことが確認されたという。
この成果は,量子基礎現象を対象とする基礎科学の発展にとどまらず,量子測定誤差の標準的定義を導き,量子暗号や量子コンピューターなどの量子情報技術,重力波検出など量子精密測定技術における様々な計測の精度評価や誤差解析への利活用が期待されるとしている。