岡山大学と,独ヘルムホルツ研究所,独カイザースラウテルン工科大学らのドイツグループは共同で,光合成の光エネルギー転換反応が起こる「チラコイド膜」を維持するVIPP1と呼ばれるタンパク質分子が作る微細な構造を,世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
光合成における光エネルギーを吸収する基本的なしくみは,種を問わず共通している。特に,光エネルギーを転換する反応は,「チラコイド膜」という光合成をする生物に特徴的な膜構造の中で行なわれる。
植物の葉緑体には,平たい円盤状の膜が重なり合ったグラナと平坦な一層のストロマラメラが観察できる。この膜の中に,光エネルギーを吸収してエネルギー転換をする光合成装置が配置されている。チラコイド膜は光合成の足場とも言える重要な構造だが,どのように作られて維持されるかについては謎とされてきた。
研究グループは,VIPP1というタンパク質はに注目。VIPP1は,葉緑体の膜に凝集して結合し,光合成のエネルギー転換反応と水分解を行なう光合成装置の維持にも重要だと予想されてきたが,その詳しい機能は分かっていなかった。また,VIPP1タンパク質を植物で恒常的に発現させると,発芽や初期成長が悪い植物の生育改善や,高温にさらした植物の光合成活性を維持させることができ,光合成を高める作用があることもわかっていたが,どのような仕組みによるものか詳細は分からなかった。
今回,解析により,シアノバクテリアから精製したVIPP1 タンパク質の詳細な分子構造を明らかにした。VIPP1は100分子以上が結合した不均一な集合体を形成するため,解析が困難だったが,クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析により,この超分子構造を3.6Åの高解像度で明らかにした。これにより,光合成の足場となるチラコイド膜の維持には,膜を維持するための普遍的な機能としてVIPP1がはたらくことを突き止めた。
研究グループは,今回のの研究を通してチラコイド膜を頑強にし,光で壊れやすいや光合成の装置を延命させる技術の開発が藻類や植物で期待できるとする。今後,気候変動から植物が受けるストレスを克服した作物,バイオマス植物を用いたバイオ燃料・バイオ製品の素材開発を通して,クリーンエネルギーによる脱炭素社会への貢献が期待されるとしている。