東北大,高分子の結晶配向をナノスケールで可視化

東北大学の研究グループは,電子顕微鏡で高分子材料中の結晶の配向を,ナノスケールで詳細に可視化することに成功した(ニュースリリース)。

結晶性高分子を溶融させた後,融点以下に冷却すると分子鎖が折り畳まれ,板状の結晶(ラメラ晶)が形成される。さらに,このラメラ晶は中心から放射状に成長しマイクロメートルサイズの球状の集合体である球晶を形成する。このように,結晶性高分子はナノメートルからマイクロメートルに渡る複雑な階層構造を形成するという特徴がある。

これらの様々な階層の中で,ナノスケールのラメラ晶の局所的な配向は詳細が明らかになっていない。ラメラ晶の配向は,高分子材料の力学特性・熱特性などに大きな影響を与えることが知られている。

高分子結晶の構造解析によく用いられるX線回折法では,ラメラ晶のおおよその配向は知れるが,ナノスケールの局所構造を観察するには分解能が不足する。ナノスケールの構造観察には電子顕微鏡が適しているが,高分子結晶は電子線の照射により容易に破壊される(電子線ダメージ)ため,ラメラ晶の配向の観察・可視化は困難だった。

そこで研究グループは,走査型透過電子顕微鏡法(STEM)に高感度の検出器(カメラ)を装備し,試料に照射する電子線の強度を弱め,高分子結晶に与えるダメージを最小限にしながらnm径まで収束した電子線を試料面で走査するイメージング法(ナノ回折イメージング)を用い,結晶性高分子の内部構造をnmスケールで可視化した。

研究グループは結晶性高分子であるポリエチレンを用い,分子鎖の向き(ラメラ晶の配向)に秩序が無い試料(無配向試料)と,分子鎖を一方向に揃えた試料(配向試料)を作製した。

電子線を直径15nmというラメラ晶に近いサイズまで収束し,試料上を30nm間隔で走査しながら,各点からの電子回折図形を取得した。電子線が試料中の結晶に適切な角度で照射されると,その入射方位に対応した電子回折図形が得られ,その図形に見られる輝点の角度や強度を算出することで結晶の方位を解析できる。

この方法は分解能が30nmとX線の分解能の1/30程度になる。実験では2つの試料について,それぞれ1万枚以上(128×128画素,一辺約4µm)の電子回折図形を得た。これらの回折図形を1枚ずつ解析し,ラメラ晶の配向を評価した上で2次元プロットしたところ,無配向試料でラメラ晶の向きに規則性がなく,配向試料ではラメラ晶がほぼ一方向に揃っている様子をとらえた。

このような高分解能(今回は30nm)での配向マッピングは得られたのは初めて。研究グループは今後,更なる高分解能化に取り組むとしている。

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