大阪大学の研究グループは,過酷な高温条件下や電子線照射環境下においても壊れないナノサイズ金属粒子の合成に成功した(ニュースリリース)。
金属ナノ粒子は様々な触媒反応に利用されるが,表面エネルギーが高いため,過酷な環境下では凝集や表面構造の変化が起こり失活してしまう。この課題を克服するため,森准教授らの研究グループは高い比強度,破壊靭性,高延性,高温強度,耐食性を示すハイエントロピー合金(HEA)に着目した。
HEAは,5種類以上の元素がほぼ当原子組成比(5–35wt%)で含まれ,単相の固溶体を形成する金属材料。HEAを触媒材料として利用するためには,ナノ粒子化が必須となる。しかしながら,これまでの報告では2000℃以上の瞬間加熱装置や,高温高圧装置が用いられており汎用性が低く,それゆえ触媒材料としての応用は未開拓だった。
これまで研究グループは,TiO2表面の水素スピルオーバー還元駆動力に利用すると,Ru-NiやRh-Cuなどの熱力学的に非平衡な固溶体合金ナノ粒子が,水素還元というシンプルな手法で,しかも300ºCという低温で生成することを報告している。今回はこの技術を応用すると,Co,Cu,Ni,Ru,Pdの5元素で構成される2nmのHEAナノ粒子がTiO2表面に400⁰Cで合成できることを発見した。
合成したHEAナノ粒子は,二酸化炭素の資源化反応において,単一金属から成る既存の触媒より数倍優れた性能を示すだけでなく,400⁰Cで長時間利用してもその粒子径は変化せず,高い耐久性を示した。さらに透過型電子顕微鏡を利用したその場実験において,電子線照射によるknock-onダメージに対しても安定であることが見出された。
単一金属ナノ粒子はその表面エネルギーが高いため,過酷な環境下では凝集や表面構造の変化が起こり失活してしまう。これに反しHEAナノ粒子では,配置のエントロピーが大きいために,高温状態でも結晶相が熱力学的に安定化されたためと考えられるという。
今回開発した担持合金ナノ粒子は,調製が極めて簡便,過酷な環境下においても安定性が高く分離・回収の容易な粉末状であるなど,実用化触媒に不可欠な基盤要素を兼ね備えている。さらに研究グループは,カクテル効果,遅い拡散効果が,触媒活性やナノ粒子の構造安定性に起因していることを理論計算を用いて証明しており,学術的な意義も極めて高いとしている。