東北大学と米ジョンズ・ホプキンス大学は,金属ガラスのハイエントロピー化を意図的に促進すると,比熱(熱力学)と粘性率(動力学)の変化から検出される2つのガラス遷移温度の間に存在する密接な対応関係が崩壊する“デカップリング現象”が生じることを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
固体物理・材料科学における未解決問題として知られるガラス遷移現象は,急冷中の過冷却液体が熱力学的に安定な結晶固体へ凝固せず,長範囲規則性を持たないガラス固体に凍結する現象であり,その根本的な理解に向けて世界中で研究が進められている。
金属ガラスは,高強度,高靭性,優れた軟磁性などで知られる一方で,構成原子が異方性の少ない金属結合によって,ほぼ無秩序に凝集した簡単な構造モデルで表されるため,ガラス遷移に関する基礎研究の対象材料としても大いに注目されている。
ガラス遷移の物理と得られるガラス固体の性質を正しく理解することは,自然科学における重大未解決課題の一つと位置付けられている。急冷過程は“一瞬”であるため、ガラス遷移温度の検出は容易ではない。
これまで昇温過程において金属ガラス固体が過冷却液体に遷移する際に,比熱のジャンプが生じる温度である熱力学的ガラス遷移温度と,粘性率が緩和する温度である動力学的ガラス遷移温度は,密接に関連(カップリング)していると考えられてきた。
今回研究グループは,ハイエントロピー金属ガラス,La27.5Ce27.5Ni20Al25 HE-MG,Ti25Zr25Cu20Ni20Al10 HE-MG,Pd20Pt20Cu20Ni20P20 HE-MGをそれぞれ作製して調べたところ,比熱変化から検出したガラス遷移温度と,粘性率変化から検出したガラス遷移温度の大小関係に相関の無い,デカップリングを実験的に確認した。
この研究の実験結果によって,比熱(熱力学)と粘性率(動力学)の変化から検出される2つのガラス遷移温度の対応関係が,ハイエントロピー化を意図的に進めることによって崩れることが初めて示された。
この現象は,ハイエントロピー金属ガラスの組織観察から,そのより均質化したガラス構造に起因し,ハイエントロピー合金のコア効果の一つとして知られるスラギッシュ拡散も関与していると考えられるとする。
研究グループは,今回実験的に示された熱力学的および動力学的ガラス遷移温度のハイエントロピー化に伴うデカップリング現象は,物質のガラス遷移を根本的に理解する上で重要なヒントを与えてるものだとしている。