大阪府立大学の研究グループは,フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)に3Dプリンターで自作した測定ホルダーを装着し,偏光赤外光を照射することで,結晶性の有機-無機ハイブリッド薄膜中の分子や化学結合の向きや量を高感度で検出する手法を確立した(ニュースリリース)。
これまで,結晶性の物質の構造解析はX線回折を中心に行なわれてきた。しかし,有機半導体や有機-無機ハイブリッド膜,分子配列膜などの微量の試料は厚みも薄く構造解析が困難なため,高感度のX線や高価な電子顕微鏡が必要だった。
研究グループは,汎用的なFT-IRを用いることで,ごく微量の分子の構造情報が得られることに着目。3Dプリンターを用いて設計した測定ホルダーを装着したFT-IR装置を用いて,偏光赤外光を照射することで,高感度に薄膜中の分子の方位を簡単に決定できる全反射測定法(Attenuated Total Reflection,ATR法)を新たに開発した。
分子は赤外光の周波数領域で振動するため,光の電場成分と分子振動の方向がそろったときに共鳴吸収が観測される。測定に使用する赤外光に偏光を用いることで,光の電場成分の振動方向を決定することができるため,特定の方向を向いている分子のみの振動を検出することができる。
分子振動周波数は分子構造に固有の値を有することから,偏光の方位と波長がわかれば,試料中の特定の分子ユニットの方位が特定できる。さらに,特定の有機分子やユニットの方位が判明すれば,薄膜の構造を決定できる。
研究グループでは,偏光を薄膜の基板に直接導入し,基板から染み出る光を用いることで,非常に高感度に分子ユニットの方位を決定できることを見いだした。測定モデル物質として,有機-無機ハイブリッド結晶が配向している配向金属有機構造体薄膜を用いて構造解析を行なった結果,結晶配向度についてX線構造解析と同程度の構造情報を得られた。
さらに,X線回折では測定のために数百nm以上の膜厚が必要だったが,FT-IRは高感度で分子振動を検出できるため,10nm以下の超薄膜でも分子や化学結合の方位を決定できる。実際,3分子層から形成される超薄膜の構造決定にも成功した。
加えて,既存の手法では測定不可能であった結晶内での有機ユニット(例えばベンゼン環)の配向方位を新たに明らかにするなど,X線回折法に比べて実用上の優位性も明らかにした。
研究グループは,この手法が材料科学に有用かつ標準的な解析手法として,広く普及することが期待されるとしている。