阪大,最大規模の量子機械学習を実現

大阪大学の研究グループは,世界最大規模の量子機械学習実験を実現した(ニュースリリース)。

量子コンピューターは,素因数分解などのタスクにおいて,従来型のコンピューター(古典コンピューター)よりも高速に計算ができることで知られる。その応用先の一つとして,機械学習の高速化・高度化が考えられている。機械学習は大量の計算リソースを必要とすることが多く,量子コンピューターによる解決を目指して,世界中で研究開発が行なわれている。

様々な理論提案がある一方,量子機械学習の具体的な性能評価はまだまだ進んでいない。古典コンピューターによる数値シミュレーションでその性能を評価しようにも,数十量子ビットを備える量子コンピューターのシミュレーションは非常に難しい。そこで実際のハードウェアを使った実験実証や性能評価が必要とされるが,これまでの実験は数量子ビットを用いた小規模なものにとどまってきた。

これは,現在存在するハードウェアが外界からのノイズに非常に弱く,全ての量子ビットを使うような長時間の操作が難しいため。量子機械学習の有用性を検証するためには,この問題を克服し,実際のハードウェア上で多数の量子ビットを用いた実証実験が求められる。

研究グループは,量子カーネル法と呼ばれる量子機械学習アルゴリズムの核磁気共鳴(NMR)を用いて実装し,簡単な回帰・分類タスクに応用した。比較的外界からのノイズに強い分子中の核スピンの系を用いて実装したことで,25量子ビット相当の実験に成功した。これはこれまで行なわれた量子機械学習の実証実験の中でも最大規模だとする。

特に,これまでの量子カーネル法の実証実験では,使われた量子ビットの数が小さいために,計算コストの面でカーネル法を用いるメリットはあまりなかった。今回の実験が,カーネル法のメリットがあるスケールでの実験としては世界初だという。

今回用いたデータセットは簡単なものであったため,従来の機械学習手法に対する優位性は見られなかったが,他のグループの研究によると量子カーネル法を用いることで量子優位性が現れるデータセットの存在が指摘されており,研究グループは,今後このようなデータセットに対して量子機械学習における量子優位性の実証を進めていく。

世界中で量子デバイスの開発や応用アルゴリズム開発が進む中,実際のハードウェアを使った今回の量子機械学習の実証実験は,量子コンピューターのユースケース探索に重要な指針を与えるものだとしている。

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