名古屋大学の研究グループは,多くの生物種で利用可能なDNA染色蛍光色素(Kakshine,カクンシャイン)を開発した(ニュースリリース)。
真核生物において,DNAは細胞内の核に存在するほか,細胞小器官(オルガネラ)のミトコンドリアと葉緑体にも独自のDNAが存在する。
一方,生命科学分野では,DNAを蛍光検出する試薬は電気泳動,PCRなど日常的な分子生物学的技術として使用されるほか,細胞周期における染色体動態や細胞小器官の複製などの,ライブイメージング解析においても欠かせない技術になっている。
DNA染色蛍光色素に求められる性質として,①「高いDNA選択性があること」,②「光毒性の少ない可視光を利用できること」,③「適用できる生物種が広いこと」などが挙られる。しかし,これまでこれらの性質すべてを満たす色素は存在しなかった。
研究グループは,DNAを染色する分子としては報告されていなかったピリドシアニン骨格に着目し良を重ねた。その結果,長波長可視光でDNAを染色できる様々な誘導体の合成に成功し,これらのピリドシアニン骨格をもつ対称性シアニン色素誘導体による蛍光色素を,Kakshine(カクシャイン)と名付けた。
Kakshineは上記3つの性質を満たすことに加え,④「二光子励起顕微鏡による深部イメージングが適用可能であること」,⑤「核内のDNAおよびオルガネラのDNAの超解像STEDライブイメージングに適用できること」がわかった。
特に,STED顕微鏡を組み合わせた結果,通常の共焦点顕微鏡では分離できない細かな核-DNA構造や,ミトコンドリア核様体構造を明瞭に可視化できることがわかった。
実際に得られた画像から推定されるミトコンドリア核様体のサイズは,これまでの報告例と一致する約100nmであることを示した。ミトコンドリア核様体の超解像STEDライブイメージングは,従来のDNA染色色素では達成できておらず,Kakshineの有用性を強く示すものだという。
研究グループは,KakshineのがDNAの検出に紫外線を必要としない高いDNA選択性を有する色素であり,今後,生命科学分野の様々な研究への応用や先端顕微鏡技術の普及への貢献が期待できるものだとしている。