東工大ら,光で有機スズジラジカルの発生に成功

東京工業大学と東京大学は,「有機スズアニオン」の光励起によって高エネルギー体「有機スズジラジカル」を発生させることに成功し,これを利用した有機スズ化合物の簡便な合成法を開発した(ニュースリリース)。

有機スズ化合物は,炭素―スズ結合を有する有機化合物で,機能性分子や生理活性物質,医薬品の合成に用いられる。その合成にはこれまで,スズアニオンやスズラジカルを用いる合成法が多用されてきたが,更に幅広い有機スズ化合物を合成するために,新たな手法の開発が望まれていた。

研究グループはスズ化学種の光励起状態に着目。有機スズ化合物の合成に利用されてきたスズアニオンを,光照射によって電子励起状態へ変換できれば,新しい高エネルギー化学種「ジラジカル」として合成に利用できるのではないかと考えた。

理論計算を行なった結果,400nm付近(青色)の光を用いれば,スズアニオンを効率よく光励起できることが示唆された。また、スズ元素の重原子効果によって,励起一重項から励起三重項に効率よく変換されることも理論的に予想された。こうして生じる励起三重項スズジラジカルの分子軌道を解析したところ,高い1電子還元能を有することが予測され,これまでとは異なる反応を実現できる可能性が示された。

スズアニオン前駆体とフッ化物イオンの組合せに青色光を照射して光励起させ,スズジラジカルを発生させたところ,スズジラジカルが従来のアニオンやラジカルとは異なる反応性を有し,望みの反応点のみを変換できる高い選択性を有することが確認された。

この反応では,化合物を混ぜて光を当てるだけで目的の有機スズ化合物が得られるだけでなく,医薬品であるメストラノールを変換可能であるなど,従来法よりも幅広い化合物の合成に適用できるという。

さらに,最も安定な結合の一つである炭素―フッ素結合を有し,機能性分子や医薬品などに数多く含まれるフッ化アリールに着目。この炭素―フッ素結合を炭素―スズ結合へ変換できれば,様々な類縁化合物が一挙に合成できると期待されるが,その結合の高い安定性から,そうした変換は困難とされてきた。

そこで研究グループは,ジラジカルの高い還元力を利用して炭素―フッ素結合を切断し,スズ元素を導入することに成功した。この手法は,約50年ぶりの新たなスズ化学種を発生させるものであり,高い反応性と選択性によって,これまで合成できなかった有機スズ化合物へ容易にアクセスすることができる。

研究グループは,今後,幅広い機能性分子や医薬品の多様な類縁化合物を迅速に合成可能になることが期待されるとしている。

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