慶應義塾大学の研究グループは,ナノ多孔体(ナノメートルサイズのスポンジ状細孔を持つガラス材料)に閉じ込めた液体ヘリウムが,4次元XY型と呼ばれる超流動相転移を起こすことを明らかにした(ニュースリリース)。
ヘリウムは約2K以下の極低温で,粘性のない超流動状態に相転移する。そのとき,比熱などの量が無限大に発散するような異常な挙動-臨界現象-を示すが,その振る舞いを記述する「臨界指数」の値により,相転移は「普遍性クラス」と呼ばれるカテゴリーに分類できる。
ヘリウムの超流動相転移は「3次元XY型」という普遍性クラスに属する一方,固体壁に吸着したヘリウムの薄膜は2次元物質として知られ,「2次元 XY型」のBKT超流動相転移を示す。
研究では,液体ヘリウムをナノ多孔質ガラスに閉じ込めたときの超流動相転移を詳細に調べた。ナノ細孔中のヘリウムの流れを計測し,超流動密度という量の臨界指数を正確に決定した。その結果,様々な圧力で臨界指数が全て4次元XY普遍性に属する指数となった。
ナノ多孔体中で4次元相転移が起こるのは,ナノ多孔体中ヘリウムは「量子相転移」を示すことが,研究グループの過去の研究によりわかっている。通常の相転移は熱揺らぎで生じるが,量子相転移は絶対零度でも存在する「量子揺らぎ」により起こる。
ヘリウムをナノ多孔体に閉じ込めて圧力をかけると,超流動が徐々に消失する量子相転移が起こるが,この量子相転移は,通常の3次元空間での揺らぎに加えて,虚数時間軸方向の次元をもう一つ考えることで理論的に説明できる。
つまり絶対零度では,「3空間次元プラス1虚時間次元」の4次元量子相転移が起こると考えられていたが,今回の研究では,この4次元相転移が絶対零度ではない温度でも起こることがわかった。
ナノ多孔体中ヘリウムでは,超流動相転移温度より高温側でもナノスケールの超流動体「局在ボース・アインシュタイン凝縮体(局在BEC)」が多数存在し,それぞれが「相関長」程度の大きさと量子力学的な位相を持つ。高温では,3次元空間と虚時間方向の両方で位相が乱雑に揺らぎ,BEC がありながら超流動を示さない状況になっている。
通常は位相が熱により揺らぐが,ナノ多孔体中ヘリウムではヘリウム原子集団の持つ量子力学的不確定性で位相が揺らぐことが今回明らかになった。転移温度のごく近くでは,相関長が4次元の全方向で大きくなり,局在BECが重なり合って位相がある向きに揃い,超流動状態となる。
4次元相転移は,理論的には最も単純な相転移だが,これを現実の物質で実現することは困難だった。今回の成果は相転移やトポロジカル量子現象の理解に貢献することが期待されるとしている。