新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(産総研)は,電気特性に関する仮想材料実験を計算機上で行なうために必要な技術を開発した(ニュースリリース)。
NEDOは,従来の経験と勘に依存する材料開発と比べ,試作回数・開発期間を1/20に削減・短縮することを目標とする「材料設計基盤技術の研究開発プロジェクト(超超PJ)」に2016年度から取り組んでおり,2019年4月には産総研,先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)と共同で,革新的機能性材料の開発を支援するシミュレーターを開発した。
AI技術の材料開発への有効利用を進めている材料インフォマティクス分野では,材料組成や構造から材料物性の機能を予測することを順問題予測と呼ぶ。順問題予測から,AIによる材料設計に必要なビッグデータを取得するので,これを正確に行なうことは非常に重要となる。
しかし,順問題予測を行なうことは簡単ではなく,計算シミュレーションに限って言えば計算機資源が有限であるため,実材料のサイズと計算可能なサイズの間に大きな食い違いがあることが問題だった。
このような背景の下,NEDOと産総研は超超PJにおいて「計算支援次世代ナノ構造設計基盤技術」の一つとして開発した電気・光などのキャリア輸送を予測するシミュレーターに含まれる第一原理電気伝導計算機能と人工知能(AI)技術の手法の一つである深層学習法を連携させることにより,順問題予測を正確に行ない,電気特性に関する仮想材料実験を計算機上で行なうために必要な技術を開発した。
この技術による計算機上の仮想実験を実施することにより,材料の組成・構造の数値情報からその電気的な性質を明瞭に関連付けた高精度のデータを大量に生成することができるという。
このようにして得た大量の順問題予測データに対してAIを利用することにより,得たいと思う機能・性質からそれを実現する材料の組成と構造の情報を逆に予測する,いわゆる逆問題の予測(逆問題予測)を行なうことができる。
AIを用いる逆問題予測の実施には,材料の組成・構造と明瞭にひも付けられている機能・性質データの大量で広範な入力が必要だが,今回開発した仮想実験環境構築技術により,実際の実験では得ることが難しい材料データを大量に生成できるとする。
この成果は,ヨーロッパの有力な材料インフォマティクス研究機関による古典分子動力学計算パラメーターの自動算出に次ぐ成功例として,また機能予測に関する初の成功例として,新規性や学術的価値も高いとしている。