量子科学技術研究開発機構(QST)と東京理科大学は,隣り合うスピンが互いに逆向きに配列している反強磁性モット絶縁物質に,極短光パルスレーザーを照射すると,逆向きのスピン配列が壊れたり元に戻ったりする振動が,10フェムト秒の時間スケールで規則的に起きることを理論的に発見した(ニュースリリース)。
研究では,二次元反強磁性モット絶縁物質に着目。これは典型的な「反強磁性」を示す磁性体であり,磁性の最小構成要素となるスピンが層内で反平行に(スピンの向きが互い違いに)並ぶ層状構造をとる。
この反強磁性モット絶縁物質に,ポンプ光として極短パルスのレーザーを照射し,プローブ光として極短パルス・高強度のX線を照射する時間分解共鳴非弾性X線散乱実験を念頭にした理論モデルを構築し,数値計算シミュレーションを行なった。
このような計算では多次元解析が必要であり,例えば,1回の計測の過程につき,数百万次元の状態を300個位求める計算を行なった。また,プローブとなる散乱X線としては,2次元的に互い違いであるスピン配列状態の変化を捉えやすい互いに90度に散乱される二つのX線シグナルに着目した。
その結果,光励起された反強磁性モット絶縁物質においては,プローブ光として照射したX線が互いに90度に散乱される際,散乱された双方のX線の強度が数十フェムト秒の周期で振動し,しかもそれが「逆位相」になることを発見した。
この逆位相であることは,片方の散乱X線の強度が高い時はもう片方が低くなるということであり,極端時間にこのような規則的な現象が生じることを世界で初めて見出した。
また,この逆位相となる原因についても調べた結果,レーザー照射により光励起された際の物質のスピン配列に起因することが分かった。すなわち光照射されることにより,「互い違いのスピン配列が壊れた状態」と「元のスピン配列の状態」とが,量子力学的に重ね合わせられて,その二つの状態を行き来する「逆移相」の特徴を持った振動が発生することが分かった。
極短パルスレーザーを照射した瞬間は,様々な励起が同時に起こるため,このような規則的な現象は予想されておらず,全く新しい物理現象の理論的発見だとする。
この成果は,超高速時間領域における新たな現象の理論的発見とX線自由電子レーザーを用いた新しい実験の提案という極めて先駆的・画期的なもの。将来的に今回の結果が検証されることで,磁性の学理究明や,従来より3桁以上速いフェムト秒レベルの超高速磁気デバイスの動作原理開拓に貢献することが期待されるとしている。