中部大ら,光るミミズの生存戦略とその分布に知見

著者: sugi

中部大学とタイ チュラロンコン大学は,日本の砂浜に棲む発光ミミズの起源と発光の役割に関する新しい知見を得た(ニュースリリース)。

発光するミミズの一種「ポントドリルス・リトラリス」(和名「イソミミズ」)は見た目は普通のミミズだが,刺激を受けると体から黄緑色に発光する粘液を放出する。

イソミミズは,日本に限らず世界中の砂浜に分布しているが,遺伝子解析の結果,日本のイソミミズは東南アジアから海流に乗って渡って来たことが推測されている。

今回,研究グループは,東南アジアにしか分布しないイソミミズの近縁種に注目した。この種(仮に「マレーナガイソミミズ」とする)を調べたところ,発光する生物と同属に分類されるほど近縁であるにもかかわらず,発光しないことが分かった。。

発光するイソミミズと発光しないマレーナガイソミミズは,東南アジアでは同じ砂浜に棲んでいるが,イソミミズは砂の表面に多く棲み,マレーナガイソミミズは10cm以上の深いところに棲む。砂の浅いところは漂着物が多く食料が豊富だが,捕食者も多い。一方で深いところは,餌資源は少ないが外敵も少ない。

つまりイソミミズは危険を冒して餌の豊富な場所(砂浜の浅いところ)に進出し,この進出のきっかけが「光ること」だったと考えられる。そこで,イソミミズとその捕食者であるハマベハサミムシを暗いところで一緒にして行動を観察した。

その結果,ハマベハサミムシは,イソミミズを見つけると攻撃しはじめ,攻撃を受けたイソミミズは体から発光する粘液を放出した。この粘液がハサミムシの大アゴや前足に粘着すると,ハサミムシは攻撃を止めて,しきりに付着した粘液を取り除こうとした。

以上の結果から次のような進化のシナリオが考えられるという。
・イソミミズは,豊富なエサを求めて砂浜の浅いところに進出した。
・浅いところには外敵が多く,自分を防御する方法が必要になり,粘液を放出するという戦略を進化させた。
・外敵がイソミミズを攻撃すると光る粘液が体に付き,このミミズが食べたくない相手であることを学習する。
・これによりイソミミズは砂の浅いところでも生き伸びる可能性が増したが,海流に流される機会も多くなった。

すなわち,イソミミズが東南アジアから日本各地の砂浜に流れ着いたのは,発光する能力を進化させたからだと考えられるという。今回のように,発光することで生息環境を変え,その結果として分布を広げたという例は初めての報告だという。

なお,イソミミズの発光メカニズムの詳細はわかっておらず,研究グループは今後,発光しないマレーナガイソミミズと比較することで,発光の仕組みの解明につながるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 千葉大,ブラックライトで光るコチョウランを開発

    千葉大学の研究グループは,NEC ソリューションイノベータおよび奈良先端科学技術大学の開発した蛍光タンパク質の遺伝子をコチョウランに導入することで,ブラックライト照射下で花が黄緑色の蛍光を発する「光るコチョウラン」を開発 […]

    2024.01.19
  • 中部大ら,光るカタツムリをタイで発見

    中部大学とタイ チュラロンコン大学は,タイの各地からカタツムリを採取し,その中から,これまで発光することが知られていなかった5種を見つけた(ニュースリリース)。 軟体動物有肺類のカタツムリは世界に約30,000種が知られ […]

    2023.09.22
  • 名大ら,深海底に広がる発光ナマコの多様性を解明

    名古屋大学,米モントレー湾水族館研究所,ベルギー ルーヴェン・カトリック大学は,深海に生息するナマコ類の多くが発光能力を持つこと,そして高い多様性をもち豊富に存在することを新たに発見した(ニュースリリース)。 地球表面の […]

    2023.06.01
  • 名大ら,深海性発光物質の生産者を発見

    名古屋大学,米モントレー湾水族館研究所,モントレー湾水族館,米マサチューセッツ工科大学,米マイアミ大学は,有櫛動物クシクラゲが生物発光に使われる基質セレンテラジンを自身で合成できることを明らかにした(ニューリリース)。 […]

    2020.12.12
  • 中部大ら,1億年前のホタルの発光を再現

    中部大学,長浜バイオ大学,鹿児島大学らは,計算科学と分子生物学的手法を駆使し,世界で初めて白亜紀の最初のホタルの発光の再現に成功した(ニューリリース)。 ホタルの仲間(ホタル科)は,世界に約2000種が知られており,その […]

    2020.12.03
  • 東大ら,発光するクモヒトデを発見

    鹿児島大学と東京大学は,奄美群島の加計呂麻島沿岸の砂泥底から発見されたクモヒトデの1種が日本初記録であることを明らかにし,この種は外部刺激に対して肉眼でも確認できる明るさの光を発することも明らかにした(ニュースリリース) […]

    2020.10.29
  • 名大ら,深海に発光サンゴを発見し発光機構を解明

    名古屋大学と米モントレー湾水族館研究所の研究グループは,深海4,000mまでの海底を調査し,新たに4種の発光するサンゴやイソギンチャクの仲間を発見した。さらに,これらの発光の分子メカニズムを解析し,八放サンゴ亜綱における […]

    2020.07.14
  • 中部大ら,餌から発光酵素を得る魚の仕組みを解明

    中部大学,米モントレー湾水族館研究所,名古屋大学の研究グループは,魚類で初めて,ルシフェラーゼの由来の解明に成功した(ニュースリリース)。 キンメモドキが発光することは50年前の論文以降,誰からも報告されていなかった。研 […]

    2020.01.10
  • オプトキャリア