理化学研究所(理研)は,光の入射方向を反転することで,光第二次高調波発生(SHG)のオン/オフが切り替わる光ダイオード効果を発見した(ニュースリリース)。
光アイソレータを用いると光を一方向にだけ通すことができるが,この機能を実現するためには複数の素材を組み合わせる必要があり,光素子の小型化や集積化が困難であった。そのため,光ダイオード特性を単一の素材で実現する材料の開発が望まれていた。
研究グループは,メタホウ酸銅(CuB2O4)結晶を用いて,SHGの測定を行なった。この物質は,21K(約-252℃)以下に冷却すると,マルチフェロイック状態となり,吸収率や発光強度が非対称になる光ダイオード効果を示す。
今回の研究では,結晶を12K(約-261℃)に冷却した上で,波長1764nmのレーザー光を入射し,2倍の周波数(半分の波長)である近赤外光882nmのSHGの整流特性を測定した。その結果,光が結晶のある方向に入射した場合にはSHG光が強く発生し,光の進行方向を反転した場合には97%以上減少し,ほぼ消失することを発見した。
また,観測結果を次のようなメカニズムで説明できることを示した。SHGには,光の電場によって生じるSHGと光の磁場によって生成されるSHGの2種類がある。マルチフェロイック物質では,この2種類のSHGが干渉することで光ダイオード効果が生まれるが,通常は磁場由来のSHGが非常に小さいことから,光の進行方向を反転してもその強度は変化しない。
ところが,メタホウ酸銅では,磁場由来のSHGが磁気共鳴効果により882nmにおいて極端に増大し,電場由来のSHGと同程度の大きさを持つことが分かった。その結果,ある方向に進む場合にはSHGが発生するが,方向を反転させると両者がほぼ完全に打ち消し合い,SHGが消失する状況を実現できた。
さらに,外部磁場0.01テスラの反転によって,この方向を制御/反転可能であることを立証した。つまり磁場反転によって,SHGが弱かった光の進行方向が,今度はSHGが強く発生する方向に変化する。その結果,SHG強度を30倍以上も変化させる巨大磁気応答を示すことが分かった。
この成果は,磁場制御可能な光スイッチや,波長変換素子,光整流素子などの応用につながるもの。このようなダイオード特性は光に限らず,電流,スピン波,音波,熱流などの多彩な準粒子流に対しても観測される。発見した手法は,これら一般的な準粒子のダイオード効果に対しても有効と考えられるとしている。