日本原子力研究開発機構(JAEA)と独アウグスブルグ大学は,量子効果の強いイッテルビウム磁性体が絶対零度近くの極低温に到達可能な優れた磁気冷却材であることを示した(ニュースリリース)。
一般的に、磁石の揺れる運動は温度の低下に連れてだんだんと小さくなっていくが,ある程度の温度までは揺れの性質を維持しており,冷却効果を持っている。
しかし,ある温度以下になると,磁石が持つ同じ方向を向く性質のために揺れが小さくなり整列を始める。さらに低温になると磁石が揃い,揺れが止まる。磁気冷却は低温下でのこの性質のため,熱を吸収しなくなる欠点があった。
ここに量子力学を適用すると,微小磁石や原子は絶対零度でも静止せず量子的に揺れていることが分かる。例えば,量子効果が強く表れるヘリウムは絶対零度でもヘリウム元素自身が大きく揺れているため,元素の静止状態である個体に固化せず液体状態を保持する。
研究グループは,今回,強い量子効果を持つイッテルビウム磁性体に着目し冷却性能を調べた。イッテルビウム磁性体は固有の温度以下でも微小磁石が整列せず,さらなる冷却が可能と考えられているという。
熱容量実験の結果,イッテルビウム磁性体は極低温でも量子的な揺れにより,微小磁石が整列していないことを確認した。さらに,イッテルビウム磁性体を用いて冷却装置を試作し,従来型の冷却材を用いた市販磁気冷却装置と性能を同じ条件で比較した。
市販装置の到達温度は絶対温度で0.08Kだが,試作装置は大幅に絶対零度に近い0.04Kに到達し,イッテルビウム磁性体は従来材料の欠点を克服した画期的な冷却材であることを示した。
現在主流のヘリウム冷凍機は,使用しているヘリウム3ガスが原子炉などでしか生産できず,極めて希少で供給不安定なことが懸念されていた。一方で,イッテルビウム磁性体は原料の入手が容易。この高性能冷却材の登場により,イッテルビウム磁性体を使用した磁気冷却が現行冷却法を代替し,量子コンピューターなどに広く利用されることが期待されるとしている。