東京工業大学と東京工業高等専門学校は,カルバゾール環の殻を持つ2nmサイズの分子カプセルの作製に成功した(ニュースリリース)。
カルバゾールは窒素原子を含む芳香族化合物で,特徴的な分光学および電気化学的性質から,有機EL材料を代表とする幅広い分野で注目されている。研究では,複数のカルバゾール環から成るナノメートルサイズのカプセル構造体を簡便に作製し,その新たな空間機能の開発を目指した。
まず2つのアントラセン環と2つの親水基を持つV型の両親媒性分子AAに着目。この分子は水中で自己集合して,水溶性の分子カプセル(AA)nを形成する。このカプセルは大小様々な色素分子を効率良く取り込むことができる。
そこで研究グループは,アントラセン環をカルバゾール環に置き換えたV型両親媒性分子CAを設計して,その自己集合によりカルバゾール環の殻を持つ分子カプセルを作製した。
V型両親媒性分子CAを,カルバゾールを出発原料に合成し,分子カプセル(CA)nを100%の収率で形成した。このカプセルは主に,6分子のCAからなる2nmの球状集合体であると判明した。
また,CAは分散状態(メタノール中)で容易に重合して不溶化するが,カプセル形成により電気化学的な酸化還元刺激に対して顕著に安定化することが分かった。
分子カプセル(CA)nは内部空間に,クマリン色素C30およびBODIPY色素PMBを取り込むことで,分光学的性質が大きく変化した。内包体(CA)n•(C30)mの黄色溶液の紫外可視吸収(UV-vis)スペクトルでは,C30に由来する1つのバンドが,カプセルに内包されることで短波長側に大きくシフトした。
また,BODIPY内包体(CA)n•(PMB)mのUV-visスペクトルでは,本来1つのバンドのみが観測されるPMBが,カプセルに内包されることで2つのバンドに大きく分裂した。
この分光学的挙動を調べたところ,通常は平面構造に近いC30が,カプセル内では直交構造を取ることが示された。すなわち,カプセル化によるカルバゾール骨格の立体効果で,色素分子をねじることに成功した。
一方,既報の分子カプセル(AA)nでは,この現象は観測されなかった。また,PMBに関しては既報の直線型かさなりや完全かさなりとは異なり,2分子のPMBがカプセル内でL型にかさなることで,新しい分光学的性質を示すことが判明した。
簡便な内包操作により,色素分子の分光学的性質を大きく改変できるこの手法は,今後,様々な化合物への適応が期待できるほか,分子カプセルの酸化還元特性と分子内包能を組み合わせた新たな機能発現も期待できるとしている。