東北大学と東京工業大学は,二次元有機・無機ハイブリッドペロブスカイトにおいて,キラリティの制御が可能な重元素から成る新しい半導体材料を設計し,結晶構造のキラリティを反映した光電流が発生することを発見した(ニュースリリース)。
キラルな結晶構造を持ち,重元素から構成される物質は,非磁性であっても電子の磁石としての性質であるスピンによる磁気的性質が引き起こされうる。しかし,重元素から成る物質の大半が属する無機物では,自由にキラリティを選択して物質を合成することは非常に難しい。
研究では,有機・無機ハイブリッドペロブスカイト系の化合物が,単一の物質内で有機物と無機物の性質を併せ持つという特徴に着目し,重元素から成る無機骨格にキラルな有機分子カチオンを挿入するという独自の指針で,従来の無機物単体や有機物単体では実現が難しい,「強いスピン・軌道相互作用」&「キラリティの制御性」を併せ持つ系の設計を行なった。
具体的には,層状構造を持ち比較的大きな分子でも組み込むことが可能な,二次元有機・無機ハイブリッドペロブスカイト型鉛ヨウ化物(2D-OIHP)を選択することで,キラリティを自由に制御できる,新しい半導体を作り出すことに成功した。
また,この2D-OIHPでは,無機層が原子番号の大きな鉛とヨウ素から構成されており,これら重元素の強いスピン・軌道相互作用が電子状態に大きく影響を及ぼすことを,第一原理計算により明らかにした。
さらに,今回開発した半導体に円偏光を照射したところ,外部電場を印加しない状態でも光電流が発生することが観測された。このような現象は,円偏光ガルバノ効果と呼ばれ,光照射する物質が,スピン・軌道相互作用でスピン分裂した電子状態になっている場合に,励起される光キャリアの運動量分布に偏りが生じることに起因する。
特に今回開発した物質では,結晶のキラリティが右手系か左手系かで,円偏光ガルバノ効果で発生する光電流の符号が反転することが見出された。キラリティに依存した円偏光ガルバノ効果からは,キラルな系に特有な運動量空間における放射状のスピン構造の形成が示唆された。
円偏光ガルバノ効果では,原理的に光照射のみでスピン偏極電流を発生することができるため,この効果による磁化反転を利用した新しい光制御型磁気メモリデバイス等の実現が期待される他,従来とは異なる特性を持つスピン偏極電流の生成源が得られる可能性があるという。
また,有機・無機ハイブリッドペロブスカイト系の化合物は,溶液プロセスでの合成が可能なため,フレキシブルな光スピントロニクス材料としても期待されるとしている。