分子科学研究所,MOLFEX,京都大学,名古屋大学,東京理科大学は,三角形構造を持つ光るラジカルtrisPyMを新たに開発し,二次元ハニカムスピン格子構造(蜂の巣スピン格子構造)を持つ新しい配位高分子を合成した(ニュースリリース)。
不対電子(スピン)が二次元ハニカム格子上に並んだ物質は,将来の電子デバイス応用につながる潜在的な可能性を持つ材料として研究が進められている。
スピンを望み通りに配置する物質設計手法の一つとして,ラジカル(不対電子を有する分子)と金属イオンとを組み合わせてネットワーク構造(配位高分子)を構成する方法が知られている。この方法を用いて,二次元ハニカム格子上に不対電子を持つ物質がこれまで報告されてきたが,物質が容易に分解してしまったり,結晶性が悪かったりしたため,物質の機能やそのメカニズム,電子状態に関する理解は不十分だった。
また,ラジカルは不対電子が持つ電荷あるいはスピンに基づき,電気伝導性や磁気特性を示す機能性分子として知られる。近年,ラジカルの新機能として発光特性が注目され,ラジカルを用いて二次元ハニカムスピン格子構造を構築できれば,電気特性や磁気特性に加え,発光特性が関与する新機能の発見につながることが期待される。
今回,研究グループはtrisPyMを設計・合成し,trisPyMと金属イオンとの組み合わせにより,化学的に安定で結晶性の高い二次元ハニカムスピン格子構造を持つ物質の開発を目指した。
発光スペクトルの測定により,trisPyMは溶液状態・固体状態の両方において発光を示す,大変珍しいラジカルであることがわかった。また,trisPyMは室温大気下で化学的に安定であるだけでなく,光照射下においても分解速度が遅く,非常に高い化学安定性を示した。
さらにtrisPyMと亜鉛イオンを有する金属錯体Zn(hfac)2をクロロホルムに溶解し,溶媒を揮発させることで,配位高分子の赤色結晶を得た。この配位高分子では二次元ハニカムスピン格子構造が構築されていることが明らかとなり,室温大気下でも分解せず安定に存在できるだけでなく,減圧下,60℃で12時間加熱しても分解しなかった。さらに,液体窒素温度に冷却すると赤色発光を示した。この配位高分子は,スピンと発光特性を兼ね備えた非常に珍しい物質だという。
この研究で得られた成果は,物質開発の可能性を大きく広げるのみならず,このような物質が示す新しい光・磁気・電気相関特性や将来の応用に資する機能の創出に力強く貢献するものだとしている。