東京医科歯科大学と理化学研究所は,生命科学領域において偏光の情報を利用して新たな蛍光観測を可能とする新規蛍光標識技術ポラリス法の開発に成功した(ニュースリリース)。
蛍光顕微鏡で生体分子を観察する場合,例えば蛍光タンパク質等の蛍光分子により観察対象のタンパク質分子を標識する必要がある。蛍光偏光を利用した顕微鏡観察では,蛍光タンパク質の発する蛍光偏光の向きにより標識された分子の向きの情報を取得する。そのため,両者を相互の空間的位置関係を保持しつつ結合させる,「かたい(=剛直な)」リンカーのアミノ酸配列を設計する必要がある。
これはリンカー配列設計から,蛍光タンパク質とこれにより標識されるタンパク質の複合タンパク質の立体構造を予測することを意味するが,その設計は最新の理論をもってしても難しい。そのため,蛍光偏光の生命科学研究への応用が阻まれてきた。
今回,東京医科歯科大学は,細胞内で発現させることの可能な人工抗体様小分子アフィマーを利用した。アフィマーは任意の分子に強く結合する性質をもったものを選びだすことが可能。このアフィマーに蛍光タンパク質を「かたく」つなぐことができれば,アフィマーを足場として任意の分子に対して蛍光タンパク質を剛直な結合を介してつなぐことができる。
そこである種の緑色蛍光タンパク質について,アミノ末端側とは逆のカルボキシル末端にヘリックス構造をもつ蛍光タンパク質を作成することにした。この変異体のカルボキシル末端のヘリックス構造と,アフィマーのアミノ末端のヘリックス構造を連続してつないだ複合タンパク質を作成すれば,両者の相互の配置がヘリックス構造により保持された状態となることが期待できる。
このように設計したアフィマー・変異緑色蛍光タンパク質複合タンパク質の結晶を理化学研究所と作成し,確かにアフィマーと蛍光タンパク質がヘリックス構造により「かたく」つながっていることと,このアフィマー・緑色蛍光タンパク質複合タンパク質から発生する蛍光偏光が,アクチン分子の配向を確かに反映していることを確かめた。
開発したアフィマー・緑色蛍光タンパク質複合タンパク質は,原理的に任意の生体分子を「かたい」結合により蛍光標識可能なプローブ分子として利用可能なことが期待され,これをポラリス(POLArIS)プローブと命名した。
アクチン重合体に結合するポラリスプローブをヒトデ受精卵において発現させ,アクチンの分子動態を蛍光偏光顕微鏡により観察したところ,分裂のたびに消長する放射状のアクチン重合体構造の存在を世界で初めての発見した。この成果により,生命科学領域の様々な研究分野で蛍光偏光の利用が広がっていくことが期待できるとしている。