名城大学は,最新の電子顕微鏡を用いて,世界初の結晶構造を調べる方法を開発した(ニュースリリース)。
生活・社会インフラの基盤となる多くの材料は原子の集合体である結晶から成っている。その結晶構造を調べる方法(結晶構造解析法)は100年前に開発されたX線や電子線の回折現象を用いた方法が主流になっていた。
研究グループが開発した結晶構造解析法は従来法とは全く異なる原理に基づくもので,高性能走査型透過電子顕微鏡(STEM)と特性X線分光(EDS)を組み合わせ,原子を可視化することにより実現した。
この電子顕微鏡像はまず,電子線を鉛筆のように細く絞り,その先端を結晶表面の一個の原子に照射,その原子から発生する特有なX線(特性X線)を高性能検出器で収集,その原子像を作成する。電子線を結晶表面全体に走査し,それぞれの原子から発生するX線を順次集め,原子像の配列した描像をつくる。なお,正確には孤立した原子を見るのではなく,結晶のある特定方向に並んだ数十個の原子「原子のカラム」を,その配列方向に沿った投影像を見ていることになるという。
特性X線による電子顕微鏡像の一例として,研究グループはニオブとタングステン原子からなる酸化物の結晶(最近リチウム電池の電極材として注目されている)を観察したところ,ボール状の原子の集合体が規則的に配列され,結晶であることが分かった。
個々のボールは「原子カラム」を上から見た投影像で,ボールは色分けされているが,緑のボール(原子)はNb原子の特性X線を用いて得られた像,赤はタングステン原子の特性X線で得られた像だという。原子を区別できる結像法は,従来法(X線構造解析法や高分解能電子顕微鏡法)の白黒像では得られなかった,最大の特長となっている。
今回開発した結晶構造解析法は,既存の走査型透過電子顕微鏡(STEM)と特性X線分光(EDS)を組み合わせた,電子顕微鏡法(STEM-EDS)だが,分解能を究極のレベルに高め,個々の原子を可視化することにより実現された。研究グループは,物質・材料研究の基礎となる結晶構造解析の新しい研究手段として期待されるとしている。