筑波大,光で繊毛運動を調節するタンパク質を発見

筑波大学は,海産動物であるホヤと単細胞緑藻類であるクラミドモナスを⽤いて,繊⽑のダイニンに結合してその動きを調節する,新規の光応答性タンパク質を発⾒した(ニュースリリース)。

繊⽑は細胞から突出している⽑状の構造で,波打ち運動をすることで,単細胞の移動や上⽪細胞の周りの⽔流発⽣を司っている。精⼦の鞭⽑も繊⽑の⼀種で,ヒトではそれ以外にも気管,脳室,輸卵管などに⽣えており,運動性の繊⽑が異常になると疾患を引き起こす。

また,細胞外からの刺激の受容にも関与しており,機械刺激や化学物質などの刺激に応答して繊⽑運動を駆動する分⼦モーターであるタンパク質複合体「ダイニン」の働きが変化する。⼀⽅,光も細胞外からの刺激として,緑藻類などの繊⽑の運動性に影響を及ぼすことが知られている。

今回,研究グループは,分⼦モーターのダイニンに直接結合する新規の光受容タンパク質を発⾒した。このタンパク質には,FADと結合し⻘⾊光の受容に関与するBLUFと呼ばれる領域が含まれており,これがダイニン分⼦のモーター部分と結合していたことから「ダイニン結合BLUFタンパク質(DYBLUP)」と命名した。解析の結果,DYBLUPは繊⽑を持つ多くの⽣物に存在することも分かった。

さらに,単細胞緑藻類であるクラミドモナスを⽤いて研究を進めたところ,DYBLUPはMOT7遺伝⼦の産物であり,内腕ダイニンのモーター部分に結合することが分かった。また,DYBLUPが,繊⽑を構成する微⼩管にダイニンをつなぎとめるテザーと呼ばれる構造の成分であることが明らかになった。

クラミドモナスは,通常,光に向かっていく性質があるが,光が強すぎるとそれを避ける⾏動が⾒られ,それが⻑い時間維持される。これは,毒性の⾼い強い光を避けるためにも重要な反応。しかし,DYBLUPを⽋いた変異体では,⼀時的に強い光を避けるものの,またすぐに光に寄っていってしまう光への順化が起こった。

このとき,正常なクラミドモナスは,いったん強い光に向かうが,すぐに2本の鞭⽑の運動性を変化させて⽅向転換し,光源から遠ざかる。⼀⽅,DYBLUPを⽋損した変異体では,この⽅向転換を⾏なうための鞭⽑運動が異常になっていた。つまり,DYBLUPには,ダイニンを調節し,光に順化してしまうのを防⽌する役割があると考えられる。

研究グループは,今後の研究により,光に対する⽣物の応答機構について新しい視点が開かれるとともに,将来的には,繊⽑運動を光で⼈為的に調節できる可能性もあるとしている。

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