東京大学は,簡便な蒸発乾燥法によってセルロースナノファイバー(CNF)多孔体を作製することに成功した(ニュースリリース)。
建築などで用いられる一般的な断熱材は不透明であり,採光性の求められる窓には使用できない。そこで,採光部にも適用可能な「透明断熱材」として,エアロゲルと呼ばれる新素材に注目が集まっている。
エアロゲルは地球上で最も低い熱伝導率を持つ固体で,高い透明性を有する多孔質材料。中でも,木材等から得られる,CNFを骨格としたCNFエアロゲルは,バイオマス由来であることや,一般的なエアロゲルの欠点である,「脆さ」を克服していることから,近年注目を集めている。
CNFエアロゲルは,CNFが含まれた液体をゼリー状に固めたのちに,乾燥によって液体のみを取り除くことで得られる。この時,一般的な蒸発乾燥を用いると,新鮮なブドウが干しブドウになる時と同様に,大きく収縮して多孔性が失われてしまう。そのため,超臨界乾燥と呼ばれる特殊な乾燥法が必須となっていた。
この方法では,物の形状を保ったまま液体のみを除くことが可能であり,網目状構造を持ったCNF多孔体を得ることができる。しかしながら,超臨界乾燥には一般的な圧力鍋の100倍もの高圧が必要であり,装置の大型化が難しい。したがって,コストダウンが難しく,実用化された例は非常に限定的だった。
研究では,CNF多孔体を蒸発乾燥により作製することに取り組んだ。乾燥前の網目構造や乾燥温度を制御することにより,乾燥収縮を抑制し,エアロゲルに類似した網目状構造を持つ多孔体を得た。
得られたCNF多孔体は光透過性を示し,木材よりも高い断熱性能や,着火しても燃え尽きない自己消火性など,原料の木材にない新たな機能を有する。加えて,体積の80%が空気でありながら,わずか2mmの厚みで10kgの重りを持ち上げることができる,高い力学強度を示した。このような多機能を兼ね備えた材料は,これまで報告例がなく,新規なCNF構造体を作製したと言えるという。
研究グループは,こうした多機能性を活かし,光透過性の壁部材としての応用を提案した。壁部材に求められる強靭性や断熱性,耐燃焼性に加え,採光性という機能を付与していることから,高い付加価値を持つ材料としての利用が期待できることから,エネルギー問題の解決に貢献する「バイオマス由来の透明断熱材」の実用化に向けた大きな一歩だとしている。