日本電信電話(NTT)は,現実的な光学装置を使いて,高い安全性を達成する高速な量子乱数生成器(QRNG)を世界で初めて実現した(ニュースリリース)。
乱数生成器(RNG)は名前の通り乱数を作り出すための装置で,数値計算,サンプリング,ゲームや暗号といった様々な分野で利用されている。しかし,全ての古典力学的な過程では,真に予測不可能な乱数を生成することはできない。
今回研究グループは,量子通信で広く利用されている光子の時刻に関する情報を使った安定した量子ビットであるタイムビン量子ビットをQRNGに応用した。これは二つの時刻を考え,そのどちらかの時刻に光子が存在する状態や,その両方に存在する重ね合わせ状態などを利用する。
光子がある時刻に確定的に存在する状態に対して重ね合わせ状態への測定を行なうと,不確定性原理により理想的にはその結果がランダムになる。安全な乱数を作るためには時刻が確定した状態と重ね合わせ状態の両方の測定が必要だが,非対称マッハツェンダー干渉計と二つの単一光子検出器を使った構成を利用することで,これら2つの測定が同時に実装されたシンプルなQRNGを実現した。
今回提案したQRNGの性能を検証するために,セキュリティエラー2−64≈5.4×10−20で量子力学的に安全性が保障された,8192ビットの乱数生成が要求される状況下での実験を行なった。理想的な場合QRNGは一様に分布し,かつ盗聴者に情報が漏れていない完全な乱数を生成する。しかし現実には生成された乱数は完全な乱数とは少し異なったものになる。
セキュリティエラーとは,乱数生成要求時に設定するこの差に関するパラメータで,小さいほどより理想的かつ安全な乱数に近いことが保証できる。今回開発したQRNGは8192ビット以上の安全な乱数を,0.1秒ごとに抽出できることで想定した要求を満たすことに成功し,安全性と性能の両立を現実的な装置で実現した。
また,盗聴者が測定結果を正しく推定する最大の確率である推定確率の上限を見積もる理論的な手法である量子確率推定法を利用し,低遅延化と実用的な安全性保証を両立した。
この手法では対象のQRNGの物理モデルを必要とするが,モデルに今回の実験における光源や測定装置の不完全性を部分的にうまく取り込むことで,現実的な装置を使ったQRNGの実用的な安全性を保証した。また推定確率を他の既存手法より効率よく見積もることが出来るため,低遅延な乱数生成も可能となった。
研究グループは,この成果が安全性の飛躍的に向上した通信ネットワーク実現に寄与するものと期待している。