名古屋工業大学と印ジャワハルラール・ネルー大学は,これまでにない短波長の光(藍色光)で働くイオンチャネル分子(チャネルロドプシン)を,藻類の一種から発見した(ニュースリリース)。
ロドプシンは光のエネルギーを使って働くタンパク質であり,動物や微生物の生体内で視覚情報の伝達や,光によるイオンの輸送などを行なっている。
中でも藻類が持つチャネルロドプシン分子は光スイッチ型イオンチャネルとして機能しており,細胞内外のイオン輸送を担っている。チャネルロドプシンは、脳神経回路を調べる光遺伝学(オプトジェネティクス)への応用,さらに視覚再生などの医療応用について高い注目を集めている。
車軸藻(Klebsormidium nitens)は淡水から汽水に生息する多細胞藻類で,進化的には陸上植物に最も近縁な藻類と言われている。研究グループは,この車軸藻のゲノムに着目し,ゲノム中の,クラミドモナスのチャネルロドプシン遺伝子と類似の遺伝子の存在に気づいた。
そこでこの遺伝子をKnChRと名付け,その働きを調べることを試みた。KnChRを哺乳類細胞へ導入し,パッチクランプ法という手法を用いることで,KnChRも光に応答して陽イオンを運ぶチャネルロドプシンタンパクであることが判明した。さらに良く調べると,KnChRは藍色光(430nm)に最もよく応答し,陽イオンを輸送した。
これまでに知られてきたチャネルロドプシンの多くは青緑光(470nm付近)や,黄緑光(540 nm付近)の光を当てることで機能したことから,KnChRは今まで知られているチャネルロドプシンの中でも最も短波長に応答する分子であることが判明した。
さらに,通常,チャネルロドプシンは水素イオンやナトリウムイオンなどをよく運ぶが,加えてKnChRはカルシウムイオンも効率よく透過することもかわった。また,イオンチャネルが働く時間(チャネル寿命)は,KnChRタンパクの大きさと相関があり,タンパク質を短くすればするほどチャネル寿命が10倍程度まで長く延長できるという性質を見出した。これにはタンパク質中の2つの特定のアルギニンというアミノ酸が関与していることを突き止めた。
研究グループは今後,藍色光を利用した神経ネットワークのオプトジェネティクス研究が可能となるとする。これによりうつ病などの精神疾患,心臓病,筋ジストロフィーなどの筋疾患メカニズム解明,さらには新しい治療法の開発につながることが期待されるとしている。