東工大ら,ダイヤモンドで脂質分子の動きを計測

東京工業大学,慶應義塾大学,大阪大学は,ダイヤモンドをセンサーとして用い,わずか5nmの厚さの脂質二重層(細胞膜)を構成するリン脂質の動きを計測することに成功した(ニュースリリース)。

麻酔薬など薬物に対する細胞の反応はその7割以上が細胞膜と呼ばれる細胞を囲んでいる外側~5nmの微小領域で始まっていることから,現在統計的に判断されている細胞の薬物反応の原理解明にはこの微小領域を高感度かつラベルフリー,すなわち「ありのまま」に解析する細胞診断技術の開発が必須となる。

研究グループは,ダイヤモンド窒素-空孔中心(NVセンタ)を用いたナノNMRと呼ばれる技術に着目した。ダイヤモンド中に窒素と欠陥により構成されるNVセンタは,細胞内部の温度を1℃以下の精度で測定するなど,生命現象を精密計測するナノ量子センサーとして注目されている。

このセンサーの最大の特長はそのサイズ(~1nm)にあり,非常に小さいサイズを持つことから観測対象に対して10nm以下の距離で高感度量子計測を行なうことが可能。観測対象近傍での計測からセンサー表面ごく近傍の限られた微小領域(~6nm3)における物質の磁性(核スピン)を計測することが可能となる。

そこで,細胞膜に見立てた薄い脂質二重層中を出入りするリン脂質の核スピンを計測するために,薄い膜状にしたセンサー上に脂質二重層を形成する技術を確立し,センサー表面から10nm以下の検出範囲で量子計測を行なったところ,脂質二重層中のリン脂質分子の動きを示す拡散係数を計測することに成功した。

今回開発したナノNMR技術は,従来の生体計測のように蛍光分子で人工的に修飾したリン脂質分子ではなく,高感度かつラベルフリーでありのままの細胞膜中のリン脂質分子の動きを計測できることから,リン脂質分布や動きを制御するメカニズムの解明,リン脂質移動と疾患の関係を調べるための細胞診断技術につながることが期待される。

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