理化学研究所(理研)は,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」で得られた多くのシアノバクテリア細胞の投影像から再構成した三次元構造の中に,シアノバクテリア細胞に普遍的な構造を見いだすことに成功した(ニュースリリース)。
X線回折イメージング法では,非結晶試料粒子に波面のそろった(空間コヒーレンスの高い)X線を照射して回折パターンを取得し,それに位相回復アルゴリズムを用いて,粒子のX線入射方向に対する投影像(投影電子密度図)を得る。
試料の三次元電子密度を再構成するには,試料粒子にさまざまな方向からX線を入射し,各入射方向での回折パターンから投影像を得た後,それらに対して逆投影法を用いて三次元電子密度を復元する。
X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」において,30Hzで供給される超高強度のXFELパルスを用いれば,照射後に試料が原子レベルで壊れるものの,短時間で多数の細胞のX線回折パターンを得られる。これまでに研究グループは,細胞周期をそろえた細胞を試料板に散布・水和凍結して,そこにXFELパルスをもれなく照射することを可能とした低温試料高速照射装置「高砂六号」を開発し,SACLAでのX線回折イメージング実験に用いてきた。
回折パターンからは,位相回復アルゴリズムを用いて,X線パルス入射方向に投影された電子密度が得られる。各細胞がほぼ同じ構造を持つと仮定すると,単粒子解析のアルゴリズムを用いることで,X線入射方向に対して粒子がどの向きであったかを推定できる。X線パルスに対してさまざまな向きにある粒子の投影像を得た後,逆投影法によって,それらの投影像をもたらした三次元電子密度図が得られる。
今回,研究グループは,細胞周期をそろえたシアノバクテリア細胞を多数散布凍結した試料に対して,「高砂六号」を用いたSACLAでのX線回折イメージング実験を複数回実施し,シアノバクテリア細胞の三次元構造の可視化に成功した。
今回の成果から,XFELとシンクロトロン放射光を用いるX線回折イメージングの相補的利用が,数十nmの解像度で細胞の個性と多様性の解明につながり,他のイメージング手法では成しえない非侵襲的イメージングの進展が期待できるという。
また,この研究は,低温X線回折イメージング法の有用性をさらに高めたものであり,今後,この手法が細胞イメージングの重要な柱の一つとなるだけでなく,非結晶金属ナノ材料試料の構造研究にも裾野を広げていくことが期待できるとしている。