東北大学は,トポロジカル物質の一種である磁性ワイル半金属Co3Sn2S2が極薄のナノ結晶でも垂直磁化の強磁性を示すことを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
近年,新たなトポロジカル物質群である磁性ワイル半金属状態の実現には,線形分散バンドに加え,強磁性などの磁気秩序とスピン軌道相互作用が欠かせない。一方で,磁性体の極薄試料では一般に熱揺らぎにより磁気秩序が弱められてしまうことが知られており,Co3Sn2S2の極薄膜がどのような磁気的性質を示すかは明らかになっていなかった。
研究グループは2019年にスパッタリング法を用いてCo3Sn2S2の薄膜化に初めて成功し,膜厚40nm程度の試料において,磁性ワイル半金属の特徴である大きな異常ホール効果の検出に成功しており,より薄い試料で,強磁性および磁性ワイル半金属性が保たれるかどうかを実験的に検証することが次の課題だった。
今回,スパッタリング法の安定性を利用してCo3Sn2S2薄膜の厚さを調整し,様々な膜厚の試料の構造,磁気特性および電気特性を系統的に評価した。結晶格子2つ分に相当する平均膜厚2.7nm(カゴメ格子6層)の試料の構造は,期待した極薄膜とは異なり,孤立した島状のナノ結晶となった。
このような極薄ナノ結晶の集まった試料の磁気特性を評価したところ,明瞭な磁気履歴曲線を検出した。この結果は,熱揺らぎに打ち勝ってスピン間の強磁性秩序が発達し,薄膜面直方向に揃っている(垂直磁化)ことを示しており,磁性体の極薄試料としては珍しい特長だという。
さらに,膜が連続的につながった膜厚4nm以上の試料を対象に,大きな異常ホール効果の発現条件を調べたところ,約10nmの臨界膜厚を見出し,強磁性 Co3Sn2S2薄膜が,膜厚増加と共に磁性ワイル半金属Co3Sn2S2薄膜へと発達していく様子を初めて明らかにした。
今回,カゴメ格子単層極限に近い条件でも強磁性が安定であることを明らかにしたことで,量子伝導の検証に必要な条件を一つ満たすことを初めて実証した。今後は極薄膜における島状成長の改善やナノ結晶の電気測定を可能にすることで,カゴメ格子単層極限での電気伝導評価も可能になると期待されるという。
膜厚増加に伴う磁性ワイル半金属相の発達も,系統的な膜厚評価により研究で初めて明らかになったものであり,特殊な電子状態の基礎的理解に向けて重要な手がかりとなる。この成果により,Co3Sn2S2を含む様々な磁性ワイル半金属の極薄膜物性の検証や薄膜を用いた素子応用に向けた取り組みがより一層加速するとしている。