金沢大学は,質量分析法の精度を向上させる新しい分子計算モデルを開発した(ニュースリリース)。
質量分析法は,名前が示すとおり,原子や分子の質量を計測する手法であり,試料にどのような物質が含まれているかを特定する手段として,化学や生物学の分野で広く利用されている。
その基本原理は,計測したい試料に電荷を与えイオン化し,そのイオンを分離・検出して,もとの化合物の構造を予測するもの。質量分析法は,さまざまな化合物に適用することができるが,高分子などの巨大分子ではイオン化されたときに過剰な電荷を持ち,さらに分子構造が複雑になるため,正確な質量計測が難しいという問題があった。
研究では,このような過剰の電荷を持った巨大分子イオンに逆の極性を持つイオンを衝突させて,余分な電荷を取り除いていく“荷電中和”プロセスに着目し,この過程を数値シミュレーションで再現する新たな分子計算モデル「連続体-分子動力学法」を開発した。
また,開発した連続体-分子動力学法を実際に高分子イオンの荷電中和過程に適用し,これまで不可能であった広い圧力範囲での荷電中和速度を予測することに成功した。その結果として,複雑な構造変化を伴う巨大分子でも,その荷電中和の進行速度を決定することが可能になったという。
この研究により,さまざまな分子とイオンとの衝突過程を計算機上で再現することが可能になった。今後は質量分析に限らず,分子やイオンの衝突が誘起する化学反応速度の解析など,幅広い分野への適用が期待されるとしている。