大阪大学とロームは,300GHz帯のテラヘルツ波を用いることで非圧縮フル解像度8K映像の無線伝送に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
2020年3月には第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスが開始され,その先の将来のシステムに向けたBeyond5G(6G)に関する研究開発が活発化している。
6Gが実現すれば,超高精細な映像の無線伝送によって,仮想現実ともいえるようなリッチなコミュニケーションが遠隔で実現することが期待されている。そのためには,膨大なデータ量を有する高精細映像の伝送を可能にする超高速・大容量の通信を実現することに加え,遅延を抑えたリアルタイム性が要求される。また,消費電力も低く抑制する必要がある。
2018年12月に8Kスーパーハイビジョンの放送が始まっているが,これを現在の放送システムや5Gのシステムを用い,マイクロ波もしくはミリ波で無線伝送する際にはデータ圧縮する必要があり,それに伴う遅延や消費電力の増大が課題になる。この課題を解決するには超高精細映像を非圧縮で無線伝送する技術が必要となる。
電磁波は一般に周波数が高いほど大容量の情報を伝送することが可能であるため,研究グループは,マイクロ波,ミリ波と比べて高い周波数を有する300GHz帯のテラヘルツ(THz)波に着目した。周波数差が300GHz帯になるように設定した波長1.55μm帯のレーザーペアの出力を強度変調器によって8K映像信号源で変調し,光電変換デバイスでTHz波に変換することでTHz送信器を2チャンネル構成した。
8K映像信号源として,4チャネルの12Gb/sの信号として出力される非圧縮フル解像度8K映像コンテンツを準備し,これを2チャンネルの24Gb/s信号になるように多重化したオンオフ変調信号を用いた。無線伝送されたTHz波を共鳴トンネルダイオードを用いたテラヘルツ受信器で検波した後,2チャンネルから4チャネルに分離し,HDMIケーブルを経て,8Kモニタに接続した。このシステムを用いることで,48Gb/sに相当する非圧縮8K映像のテラヘルツ波による無線伝送に成功した。
超高精細映像の非圧縮無線伝送技術が,社会課題に直結する遠隔医療やテレワークなどの質の向上をもたらすとともに,超高精細映像のビッグデータを利活用したフィジカル・サイバー融合の高度化につながることから,研究グループは,Beyond5Gから6G実現に向けた研究開発が加速することが期待されるとしている。