東京理科大学,国立がん研究センター,理化学研究所は,近赤外光を利用したハイパースペクトル画像から消化管間質腫瘍(GIST)を識別する方法を開発した(ニュースリリース)。
GISTは,消化管壁の粘膜下に生じる腫瘍で,内視鏡検査などで発見される。胃GISTの場合,まず内視鏡検査で粘膜下腫瘍(SMT)として検出される。SMTは粘膜深部に位置するため,GISTかどうかを診断するには技術的に難しく,時間と手間もかかるという問題があった。
そこで研究グループは,粘膜下の深部にあるSMTの診断に,近赤外光を利用したハイパースペクトル画像に着目した。近赤外光は生体試料の中を透過しやすいため生体内での直接観察が可能となる。生体分子の励起に必要な近赤外光強度は中赤外光および可視光の100分の1であり,安全性も高い。
ハイパースペクトルイメージング(HSI)は,蛍光プローブを使用せずに高解像度の分光スペクトル情報を得ることができる。機械学習アルゴリズムを使用したHSIでは,画像データの各ピクセルの分光スペクトル情報を取得するだけでなく,大量のハイパースペクトル画像から重要なデータを抽出することもできる。しかしながら,GISTのように組織の深部に生じる病変の識別技術はあまり進歩していなかった。
そこで研究グループは,近赤外光を利用したHSIからGISTを診断する技術を考案し,GIST患者12名から切除した病変を対象に検証を行なった。試料は全て事前に正常部位と病変部位を識別し,それぞれの部位から得られた画像を機械学習の訓練データとして用い,識別能力を評価した。
その結果,近赤外光を利用したHSI画像に基づく機械学習で予測されたGIST領域は,事前に病理学者が識別した領域とよく一致した。機械学習アルゴリズムの評価指標である特異度,感度,正解率はそれぞれ73.0%,91.3%,86.1%と,高い値を示した。これは,今回用いた方法でGISTと正常組織の違いを識別できることを示唆する結果だという。
研究グループはこの技術の臨床応用を見据え,ハイパースペクトル画像を形成する波長を選定する特許を既に共同出願し,体内で近赤外ハイパースペクトル画像が撮影可能な装置を開発しており,診断機器として製品化する企業を募集している。研究の発展により,切除部位の最小化することで機能を損なわないように手術できるようになれば,術後のQOLの向上につながるとしている。