北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)と北海道大学は,ハイスループット実験と触媒インフォマティクスを駆使して前知見に依らないゼロからの触媒設計を実現する道を示した(ニュースリリース)。
ある化合物を別の化合物へと変換する化学反応は,式上では単純に見えても多くの素反応によって構成されているケースが多い。化学反応の制御とは,これらの素反応を同時に制御することであり,複数の有効成分を組み合わせる多元的な触媒の設計が鍵を握っている。
しかし,組み合わせ効果の予測は非常に難しく,トライアンドエラーを通して偶発的に発見した組み合わせを段階的に発展させる経験的な方法論が,固体触媒の研究開発における常套手段であった。
研究グループは,日に4,000点もの触媒データを自動取得可能なハイスループット実験装置と触媒インフォマティクスを用いて,前知見に依らないゼロからの触媒設計を実現した。
具体的には,36,540通りもの組み合わせ(=触媒)を含む広大な物質空間から300通りの組み合わせを無作為に抽出し,これらのメタンの酸化カップリング反応(OCM)における性能をハイスループット実験により評価することで,前知見や作業仮説などのバイアスを含まない触媒ビッグデータを取得した。
このデータを機械学習によって分析することで,触媒の設計指針をモデル化し,高性能触媒を80%の精度で予測することに成功した(試験した80%の触媒が高性能と見做し得る収率を示した)。
この研究が見出した高性能触媒の大半は,OCMに関する過去40年の研究開発史に照らして未知とみなされる組み合わせであったという。ハイスループット実験と触媒インフォマティクスは,広大な物質空間を現実的な時間単位で効率的に探索する強力な手段となる。
この研究が用いた方法論は多くの材料分野に適用可能であり,研究グループは,前知見に縛られない物質探索が予期せぬ発見を多く生み出すだろうとしている。