東北大学と京都大学は,n型有機半導体材料の結晶格子の硬さ・柔らかさを化学的に自在制御することに成功した(ニュースリリース)。
化学的な手法による材料設計の自由度が高い有機材料は,一次元積層などの多彩な配列様式の分子集合体が設計できる。
無機材料と比較して,有機材料の結晶格子のエネルギースケールは,強い静電相互作用や水素結合相互作用から弱いvan der Waals相互作用まで,エネルギースケールが多岐にわたる。強い分子間力である静電相互作用により支配される有機材料の結晶格子は,その熱安定性と化学的安定性が高く,無機物材料に匹敵する性能を持つ機能性有機材料を創製できるという。
一方,電子をキャリアとするn型有機半導体材料は,水の存在が電子に対するトラップサイトとして働くため,安定なデバイス動作に問題点となる。これを解決するために,無機材料と同様な強い分子間相互作用によりn型有機半導体材料の結晶格子の硬さ・柔らかを自在制御する化学的な手法の開発が重要となる。
研究グループは,有機分子の間に働く分子間相互作用の中で,最も強い静電相互作用に着目し,結晶の格子エネルギーを段階的に制御する化学的な手法を開発し,水の出し入れが可逆に可能なn型有機半導体材料を開発した。高い熱的安定性と結晶格子の硬さ・柔軟性の制御は,可逆な水の出し入れと優れた電子移動度を実現した。
具体的には,n型有機半導体特性を示すアニオン性のナフタレンジイミド誘導体を用いて,アルカリ金属イオンであるLi,Na,K,Rb,Csを系統的に組み合わせることで,n型有機半導体材料の結晶格子の硬さ・柔らかさを化学的に自在制御することに成功した。
水に対する高い安定性と優れた電子移動度を示すn型有機半導体材料の結晶格子の設計は,無機材料を凌駕する優れた性能を有するデバイスの作製を実現可能とし,水に対する高い耐性と優れた性能の両立は,無機材料と同様な環境での有機エレクトロニクスの応用を可能とするという。
また,水の出し入れと連動した結晶格子の硬さ・柔軟性の制御は,外部環境の変化により多様な応答を示す多重機能性の創製の視点からも興味深い。研究グループは,生体系のアクアポリンのような水チャネルや電子伝達系などの優れた機能が,分子設計から実現可能となれば,生体の優れた性能を模倣した超高感度分子センサーなどへの応用が期待できるとしている。