名古屋大学,イーダブルニュートリション・ジャパンらの研究グループは,Candida albicans(カンジダ症を引き起こす真菌の一種)を標的とした近赤外光抗微生物ターゲット療法(Photo-antimicrobial Targeting Therapy: PAT2)の開発に成功した(ニュースリリース)。
耐性菌は世界的に問題となっており,新たな抗微生物治療の開発が求められている。抗体療法は高価で治療効果が限定的であり,卵黄免疫グロブリン(IgY)は安価に供給可能だが,大量に長期間摂取する必要があるなどの問題があった。
研究グループはこれらの問題点を解決するために抗体の抗微生物効果を高めることを考え,近赤外応答性プローブ(IR700DX)による効果の増強を計画した。IR700DXによるがん治療である近赤外光免疫療法は,近赤外光照射によって活性化される光吸収性フタロシアニン色素IRDye700Dx(IR700)とモノクローナル抗体の結合体を利用した分子標的癌治療。
癌細胞と抗体-IR700結合体が反応後に690nmの近赤外光照射によりIR700が活性化されると,抗体-IR700結合体が結合した癌細胞の細胞膜を破壊する。現在では臨床応用されており,日本では「切除不能な局所進行または局所再発の頭頚部癌」に対して2020年9月に承認されている。
研究グループは安価で大量に入手可能なIgYを使い,近赤外光免疫療法を感染症治療へ応用し,標的微生物のみを選択的に破壊する近赤外光抗微生物ターゲット療法の開発を試みた。
Candida albicansを標的としたIgY(CA-IgY)を使い,IR700との複合体であるCA-IgYIR700を作成した。これを用いてC.albicansに対して近赤外光微生物ターゲット療法を実施し,顕微鏡で観察したところ菌体に穴が開き,強く変形して破壊されることが確認された。
また,近赤外光微生物ターゲット療法群により真菌数は有意な低下を認めた。マウスの感染性潰瘍モデルではC.albicansの数と炎症の改善を認め,潰瘍治癒経過は非感染モデルと同等となったという。
研究グループは今後,他の病原微生物や感染モデル,より生体適合性の高いヒト化モノクローナル抗体を使った近赤外光抗微生物ターゲット療法(Photo-antimicrobial Targeting Therapy: PAT2)の更なる検討と応用が期待されるとしている。