東京工業大学は,高分子の結晶成長過程を蛍光によって可視化・定量評価することに成功した(ニュースリリース)。
結晶性高分子において,結晶化に基づく微小なひずみの発生箇所を特定することができれば材料設計や成形加工において大きなブレークスルーとなるが,結晶成長過程を蛍光によって可視化・定量評価する方法はこれまでなかった。
研究グループはこれまでに,テトラアリールスクシノニトリル(TASN)と呼ばれる,力学的な刺激によって分子の中央にある炭素-炭素結合が均一開裂し,桃色着色と紫外光(365nm)照射下で黄色蛍光を示す安定ラジカルを与える特殊な力学応答分子を開発している。
TASNの開裂は,蛍光発光や電子スピン共鳴(ESR)測定による発生ラジカルの定量に加え,蛍光顕微鏡による直接的な観察ができることから,結晶性高分子の課題解決に適切な分子プローブとして期待されていた。
今回,研究グループは,力学的刺激による開裂により蛍光性の安定ラジカルを生じるTASN骨格を結晶性ポリエステルの分子鎖中央に導入し,ポリエステルの結晶化過程で生じる安定ラジカルの直接的な可視化と定量化に初めて成功。共焦点蛍光顕微鏡観察により三次元観察もできるようになった。
具体的には,結晶性高分子として,TASN骨格を分子鎖中央に有する直鎖状と星形のポリカプロラクトン(ポリエステルの一種)を合成した。等温結晶化条件で蛍光顕微鏡観察を行なった結果,結晶化時間の進行に伴い,蛍光が見られない非晶領域から球晶状に蛍光強度が増加していく様子を捉えることに成功した。
この時の高分子の結晶化速度が,画像解析によって定量した蛍光強度の増加速度と良く一致したことから,高分子の結晶化が駆動力となってTASN骨格が開裂していると結論付けた。共焦点蛍光顕微鏡を用いることで三次元観察も行なった。
さらに,発生する安定ラジカルを電子スピン共鳴(ESR)測定によって定量評価した。等温結晶化の進行に伴い,TASN骨格の解離由来のラジカル量が増加していく様子が捉えられ,測定後のサンプルが紫外光(365nm)照射下で黄色蛍光を示した。
またこれらのESRスペクトルから,高分子の結晶化を駆動力とした微小応力が,TASN骨格の化学変化によって定量的に評価できることが明らかとなった。
研究グループは今後,さまざまな高分子の結晶化過程を可視化できるようになれば,結晶性高分子材料の設計指針の提案のみならず,高分子材料の加工法にも大きな波及効果をもたらすとしている。