東北大学は,熱延伸技術で作製された多機能ファイバーと,イオン濃度分布を可視化できる半導体化学イメージセンサーを組み合わせることで,生体埋め込み型の新しいpH可視化プローブを開発し,脳内の複数点においてpH変化を同時に高感度で測定することを可能にした(ニュースリリース)。
脳の正常な活動には,適正なイオンバランスが不可欠となる。特にpHは,ある一定の範囲内で厳密に調節されており,その範囲を大きく超えると脳の異常活動を引き起こすと指摘されている。
高い時間・空間分解能で脳内のpHを測定できれば,脳機能の理解,病気のメカニズムの解明や予防・治療に繋がることが期待される。
研究では,イオン濃度の分布を可視化できる半導体化学イメージセンサーと,多機能ファイバー技術を組み合わせることによって,新しい生体埋め込み型のpH可視化プローブを実現した。化学イメージセンサーは,光アドレス型半導体化学センサー(LAPS)と呼ばれる半導体センサーの原理を利用した。
LAPSは半導体基板上にイオン感応面となる絶縁層を形成した構造を持ち,外部から電圧を印加した状態で半導体基板に変調光を照射すると,光励起により外部回路に交流光電流が流れる。その結果,電界効果によって半導体中に生じる空乏層の静電容量が各点ごとに異なるため,各点を変調光で照射して得られる光電流を計測することによって,イオン濃度分布を画像化することができる。
しかし,平面構造を持つLAPS は,そのままでは生体内に埋め込むことが困難だった。この課題を解決するため,LAPSの生体内の応用に必要な光導波路バンドル・導線・参照電極などの機能を集積した複合プローブを開発した。
まず集積したい各要素を束ねた成形物(〜20mm)を作製し,これを加熱しながら引き伸ばすことによって,内部の幾何学的構造を維持したまま,直径が数百ミクロンのプローブを作製することができる。さらに,LAPSと多機能ファイバーの複合化により,オールインワンプローブ型のイオン可視化ツールを実現した。
開発したpH可視化プローブを用いて,脳深部の海馬において,疼痛刺激に伴うpHの微小変化を世界で初めてリアルタイムに補捉することに成功した。さらに,海馬回路への光刺激によっててんかんを起こす遺伝子組み換えラットを用い,病態における脳深部海馬回路のpH変化をリアルタイムで可視化することにも成功した。
研究グループは,このイオン可視化ツールは,てんかんの病理や新たな予防・治療方法につながっていくとしている。