筑波大,高性能ゲル状電気化学トランジスタを開発

筑波大学は,幅数十nmの有機半導体ナノファイバー中に,その100倍の重量比のイオン液体を取り込んだゼリー状材料「πイオンゲル」を,電極上にのせるだけで機能する,新しい電気化学トランジスタ「PIGT」(π-ion gel transistor)の開発に成功した(ニュースリリース)。

現在実用化されているトランジスタの大半は,シリコンなどの硬い無機材料で作られており,少ないエネルギーで安定的に動作するが,近年は,より幅広い用途に対応できる,柔軟性を持つフレキシブルデバイスの開発が進められている。

その一つに,有機材料を用いたトランジスタがあるが,流すことができる電流の量が少ないことが欠点だった。これを解決するデバイスとして登場した,有機電気化学トランジスタ(OECT)は、従来の有機トランジスタよりも,千倍以上の電流を流すことができるが,電流のオン/オフが切り替わる際の応答速度が非常に遅いという課題があった。

開発したPIGTのπイオンゲルは,その99%がイオン液体で構成されており,イオン液体単体と同程度のイオン導電性を示す。また,残りの1%を占める有機半導体は,数十nm幅のファイバーが絡み合うことで,ゲル中に蜘蛛の巣のようなネットワークを構成している。このような複雑なネットワーク構造は,分子がもつ自己集合化能に由来し,特定の条件下に置いておくだけで形成される。

通常のトランジスタとは異なり,このデバイスは体積的な電流,すなわち電極が厚いほど多くの電流を流すという,OECTに似た挙動を示す。その結果,‒3.3Vという低い閾値電圧で133マイクロゼーベックに及ぶ高いトランスコンダクタンスを示した。

これらの値は,OFETに比べて,10分の1の閾値電圧で300倍のトランスコンダクタンスを得たことを意味するといい,このような高い電気伝導性は,無機トランジスタに匹敵するものだとする。

このπイオンゲルは,イオン液体単体と同程度のイオン伝導性を示す。また,内在するゲルファイバーとイオン液体の界面面積が,従来のOECTを含むほとんどのトランジスタで採用されている積層構造界面よりもはるかに大きいことから,応答速度が20マイクロ秒以下(従来の約50分の1)という驚くべき数値を示した。これは,これまでに報告されている蓄積モードの電気化学トランジスタの中で最速だという。

PIGTは量産化も容易だとし,使い捨てのフレキシブルセンサーなどにも利用できるとする。今後さらに,有機半導体の耐久性を改善することで,柔軟性・電気伝導性・耐久性という特長を備えた有機電子デバイスの実現が期待できるとしている。

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