NECは,宇宙航空研究開発機構(JAXA)からの契約のもと光衛星間通信システム「LUCAS」向けに,レーザー光を用いて宇宙空間で大容量データ伝送を実現する衛星用の光通信装置を開発した(ニュースリリース)。
光通信装置は静止衛星用と地球観測衛星用の2種類。静止衛星と地球観測衛星の間で40,000kmにも及ぶ超長距離の光通信を実用化するために,海底ケーブルやLANなどで広く用いられ部品入手性に優れるが低出力の半導体レーザー光(波長1.5μm帯)を真空環境のもとで高出力に安定的に増幅する技術をはじめ,高い精度でデータ伝送先の衛星を捕捉し追尾する技術,さらに相対的に移動する通信相手からの微弱な受信光から広帯域の信号を復調する技術などを開発したという。
特に精密な光学系部品等で構成される光通信機器が打ち上げ時の激しい振動や衝撃,軌道上で受ける宇宙放射線にも耐えうる設計を行ない,またレーザー発振に伴う発熱に対し光通信機器において十分な排熱環境を創る工夫も行なっている。
地球の低軌道を周回する観測衛星は直接地上局にデータを伝送する際,従来の方法では地球周回1周のうち約10分程度しか地上とのリンクができなかったが,このシステムでは,観測衛星から静止軌道の光データ中継衛星を介して地上局に送る仕組みを構築し,地球周回1周(約90分)の約半分の時間をデータ伝送に充て,従来比4倍以上のデータ伝送時間を確保できる。
また,従来の電波を用いるデータ中継では直径数メートルのアンテナを衛星に搭載しても伝送速度は240Mb/sだったが,このシステム開発により光通信装置は,従来比約1/30の14cmと大幅に小さいアンテナ径でありながら衛星間の伝送速度は1.8Gb/sと従来比7倍以上に高速化したとしている。
静止衛星用の光通信装置は,2020年11月29日に種子島宇宙センターから打ち上げられたJAXAの光データ中継衛星に搭載されている。一方,地球観測衛星用の光通信装置は,今後打上げられるJAXAの地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」と「だいち4号(ALOS-4)」に搭載され,光データ中継衛星との間で光通信の実証や実利用が行なわれる計画。同社は光通信装置のシステム開発を足掛かりとして,今後の光通信の実証や実利用を推進していくという。