東京大学は,水への脆弱性が指摘されている有機トランジスタデバイスにおいて,水をあえて構成部材として用いた有機トランジスタ型センサーの開発に成功した(ニュースリリース)。
有機薄膜トランジスタ(OTFT)は,活性層に有機半導体材料を用いた電子デバイスで,ゲート,ソース間に電圧を印可することで有機半導体層に電子ないしホールのキャリアを注入し,電界制御によってドレイン,ソース間電流のON/OFFの切り替えができる。
スイッチング特性を有するこのデバイスに分子認識部位を適切に導入することで,標的種の捕捉に伴い,ドレイン電流および閾値電圧が変化するので,OTFTは分子認識情報を定量的に読み出すことができる小型かつ簡便な電子デバイス型センサーのプラットフォームになり得る。
しかし,OTFTは水に曝露すると著しく劣化するため,水中で使用できるセンサー設計が目下の課題だった。そこで研究では,あえて構成部材に水を使用した水ゲート型有機トランジスタ(WG-OTFT)に着目し,水系中で使用可能な化学センサーとしての応用を試みた。特長として,半導体/水溶液界面に生じる電気二重層(EDL)がキャパシタとして機能するため,低電圧(0.5V以下)で駆動する。
検出例として,欧米の農業分野で広く普及している除草剤であるグリホサート(GlyP)を選定し,サイドゲート構造による高分子半導体を用いたドロップキャスト法による簡便なセンサ作製を目指した。GlyPの検出機構に,側鎖に分子認識部位を導入したポリチオフェン誘導体(PT)を採用し,銅(II)イオン(Cu2+) を組み合わせ,競合応答によるGlyPの検出を試みた。
水中におけるGlyPの検出を試みたところ,濃度増加に伴いWG-OTFTのドレイン電流値の減少が確認され,その検出感度は0.26ppmと算出された。注目すべきは,Cu2+が非存在下の条件ではGlyPを添加してもトランジスタ特性は全く変化せず,この応答は競合応答に基づきGlyPの検出を達成したことを示唆した。さらに,同一のPT誘導体を用いた蛍光センサーでは,GlyPに対する検出感度は0.95ppmと算出され,WG-OTFT型センサーの有用性が明らかとなった。
研究グループは,WG-OTFTとマイクロ流路デバイス一体型センサーを構築し,リアルタイムモニタリング検出を目指した開発に取り組んでいる。このセンサーシステムの確立は,環境分析のみならず,食品分析や薬理学分野といった多岐領域で利用されることが期待されるとしている。