東大,世界最小の電流密度で磁化反転に成功

東京大学は,強磁性半導体GaMnAsの単一薄膜を用いて,電流を流すことにより生じる「スピン軌道トルク」を利用して,世界最小の電流密度4.6×104A/cm2で磁化反転に成功した(ニュースリリース)。

現在,強磁性体の電子のスピン自由度を用いて新たな省エネルギーデバイスを実現する試みが盛んに行なわれている。「スピン軌道トルク」を利用した磁化反転方式は,これらのデバイスにおける次世代のデータの書き込み方式として有望視されている。しかし,従来の研究では,107A/cm2程度の大きな電流密度が磁化反転に必要であり,それが問題となっていた。

スピン軌道トルクには「アンチダンピングトルク」と「フィールドライクトルク」という2種類の成分が存在することが分かっていたが,このうち,「フィールドライクトルク」が磁化反転を阻害する方向に働くことが分かっており,この成分を低減することが課題だった。

研究グループは,以前の研究で,半導体ガリウム砒素にマンガン原子を数%加えた強磁性半導体GaMnAsからなる垂直方向に磁化した材料を用いることにより,その単層の極薄膜に電流を流すだけで,スピン軌道トルクにより,磁化の向きが反転することを発見していた。この結果から,この材料そのものに,磁石としての性質とともに大きなスピン軌道相互作用が存在していることが分かっていた。

今回,研究グループは,GaMnAsの薄膜においては,スピン軌道相互作用の性質から[110]方向に電流を流すことがスピン軌道トルクを用いた磁化反転に有効であること,さらに,Mn濃度の不均一性に起因して電流分布が不均一になっており,GaMnAsの膜厚を変えることにより電流により生じる磁場の空間分布が変わることに着目した。

磁化反転の妨げとなりうるフィールドライクトルク成分を,電流によって生じる磁場により最適化できるようにGaMnAsの膜厚を調整した結果,世界最小の電流密度である4.6×104A/cm2の微小電流密度で180°の磁化反転を実現することができたという。

室温で強磁性を示し,その内部に大きなスピン軌道相互作用が存在し,電流が不均一に流れる物質が存在すれば,同様の効果が室温で得られることが期待される。研究グループは,この研究により,今後,より低電力で磁化反転できる新たな材料開発および素子開発が加速していくことが期待されるとしている。

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