産業技術総合研究所は,平面状の樹脂シートに作製した電子回路を破損させず,簡単かつ高速に立体成形できる技術を開発した(ニュースリリース)。
現実空間に埋設された表示デバイスやセンサーを幅広く創り出すためには,立体形状への対応が求められる。立体曲面に電子回路が組み込まれた既存製品は,立体的に成形した樹脂に部品や配線を後から取り付けて製造されているが,生産速度の向上や低コスト化に問題がある。
既存の樹脂シートの成形方法として広く使われている真空成形法や圧空成形法では,熱可塑性のシートの全面を均一に加熱してシートを軟化させ,シートの形状を金型に追従させて成形する。
一方,今回開発した熱投影成形法は,基板の一部を加熱しないことで所望の熱分布になるように加熱(ヒートプロジェクション処理)した後にシートを成形する。熱が供給されない非加熱領域ではシートが軟化せず,回路が破壊される原因であるシートの延伸や屈曲が低減できる。実装された半導体チップの破損の回避や,設計通りの寸法の維持が必要なコネクター用配線部の保護に有効であり,回路の機能を維持した状態で基板を立体的に成形できる。
立体的な回路の既存の製造手法としてはMID(Molded Interconnect Devices)技術が知られている。MIDでは主に射出成形で作製した立体的な筐体の表面に光描画プロセスを用いて配線部を描き,メッキやエッチングにより配線化した後にチップを実装する。光描画技術と実装技術の高度化により微細で高集積化された回路が形成できる。
一方,MIDは立体的な筐体の表面に光描画やチップ実装をする工法のため,筐体の角度補正や描画,実装装置との位置合わせに時間を要し,生産速度の向上が課題となっている。また,工法上製造できる回路は小型のものに限られる。
今回開発した熱投影成形法による立体回路の製造は,MID技術が課題とする高速生産と立体回路の大型化に対応できるというもの。配線形成とチップ実装による電子回路の作製までは平たんな基板上で行ない,いったん完成させた電子回路を破損させずに成形して立体的な回路を製造する。回路の製造は平たんな基板上で行なうためMIDでは必要な筐体の角度や位置の補正が不要であり,高速での製造が可能。
さらに立体化プロセスでも一般的な樹脂成形品と同様の高スループットを実現できるという。また,MIDでは困難な中型~大型の立体構造物に対応できるため,樹脂成形物に電子部品が組み込まれた製品を効率よく製造できる。
研究グループは,開発した技術の実用化に向けた企業連携を広く推進するとしている。