高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は,宇宙を記述する物理法則がパリティ対称性を破っている兆候を,99.2%の確からしさで観測した(ニュースリリース)。
宇宙を支配する暗黒物質や暗黒エネルギーの正体を明らかにするには,パリティ対称性を破る新しい物理の探索が有力な手法となる。特に,暗黒物質やエネルギーが宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の光の波とパリティ対称性を破る相互作用をしていると,CMBの偏光にその情報が刻まれ,偏光面の回転として観測される。
この信号は微弱であり,CMBを観測する検出器の回転を較正する際の不確かさによって見えなくなっていた。そこで,研究グループは銀河系内の塵が放つ別の光に注目した。銀河系内の塵が放射する光が地球に届くまでの距離は,光速でCMBの光が約138億年かけて地球に届く距離と比べてはるかに短く,光の偏光面はほぼ回転しない。つまり,偏光面の回転はCMBの光のみで見られる。
一方,検出器自体の回転の度合いは銀河系内の塵が放つ光とCMBの光の両方で見られるという違いがある。KEKは2019年に,この両者の光の見え方の差を利用することで偏光面の回転を測定する手法を開発した。この手法は,これからのCMB観測だけでなく,これまでのCMB観測データでもパリティ対称性の破れを観測することができる。
研究グループは,この手法をプランク衛星のグループが公開したCMB偏光のデータに適用し,検出器の較正精度を2倍に向上させることに成功した。これによって,パリティ対称性の破れの兆候を99.2%の確からしさで観測した。
今回観測されたパリティ対称性の破れの兆候が,今後の検証により99.99995%以上の確からしさで発見されれば,暗黒物質や暗黒エネルギーがパリティ対称性を破る相互作用をおこなっている証拠となるという。
今回の研究成果について研究グループは,この新しい物理の兆候はまだ発見とは言い切れず,今後の検証で統計的有意性を高める必要があるとする一方,パリティ対称性を破る物理の探索に,新しい道が開けたとしている。