兵庫県立大学は,新たに開発した金属錯体のコーティング剤を用いて,絶縁膜表面を溶液プロセスで簡便に被覆し,分子一層の超薄膜を作製することに成功した(ニュースリリース)。
柔らかく軽量な有機物質を使った「有機トランジスタ」は,エレクトロニクス産業の一翼を担う次世代デバイスとして期待されており,その性能向上に向けた開発研究が近年急速に展開されている。
特に,有機トランジスタを構成する「ゲート絶縁膜」と「有機半導体」とが接する「界面」は,有機トランジスタの動作・性能に大きく影響することが知られており,デバイス性能の向上につながる新たなコーティング剤の開発が待たれていた。
研究では,新たに白金を含む新物質をコーティング剤とし,分子一層から成る「超薄膜」を絶縁膜の表面に,均一かつ安定に作製する手法を開発した。この超薄膜を足場として、有機半導体の薄膜を蒸着させ,有機トランジスタを作製したところ,従来法でゲート絶縁膜を修飾したトランジスタに比べ,有機トランジスタの性能評価の指標とされる「移動度」と「オンセット電圧」を,従来法に比べ大きく向上させることに成功した。
絶縁膜と有機半導体が接する界面は,電荷が輸送される重要な領域であり,両部材への親和性を兼ね備えた金属錯体を導入する本アプローチは,界面の構造や機能を制御する有力な手法になるとする。
また,このコーティング剤は,その白金原子上の速やかな化学反応を利用することにより,大気下,温和な条件でも簡単に修飾できるため,無機酸化物の表面修飾にも適用できるものと期待されるという。
このコーティング剤に含まれる「配位子」は化学合成により多様化できるため,研究グループは,界面の構造と機能をより一層精密に制御できる新手法として期待されるとしている。