森林総合研究所と中国科学院瀋陽応用生態学研究所は,森林生態系の炭素循環における光分解の役割を明らかにした(ニュースリリース)。
陸域生態系の炭素循環のメカニズムを解明することは,気候変動や土地利用変化に対する炭素循環の応答を予測する上で重要となる。植物から供給される落葉の分解は微生物を主とする分解者の活性を左右する温度や水分,そして落葉の質に強く影響されると考えられてきた。しかし,これらの要因に基づく経験的なモデルで推定される地球規模の炭素循環は実際より遅く見積もられており,他の重要な要因が見落とされている可能性が示唆されていた。
太陽光は植物の成長に不可欠なエネルギー源であるだけでなく,紫外線(UV)や短波長可視光によって光化学反応を誘導し,リグニンなどの高分子化合物を直接可溶性の低分子に切断することで,有機物分解,すなわち「光分解」を促進する。近年の研究により,乾燥・半乾燥地域ではこの光分解が落葉分解の主要な駆動要因であり,光分解を考慮することでこれらの地域の炭素循環をより正確に推定できることが確認された。
しかしこれまで,地球規模の炭素収支評価では森林における光分解の影響は殆ど考慮されていなかった。そこで研究では,温帯落葉広葉樹林およびそれと隣接する伐採地(北茨城市)で落葉分解実験を行なった。
その結果,伐採地では全スペクトルの太陽光に曝露することで落葉分解速度が太陽光を排除した微生物分解のみの場合に比べて約120%促進され,特に青色光が光分解による増加の75%に寄与していることがわかった。これをもとにシミュレーションを行なうと,もし森林の林冠が20%開くと,落葉後1年間で落葉中の炭素が光分解によって13%多く失われることになるという。
また,種の違いにかかわらず,落葉中の初期のリグニン含有量が高いほど青色光による光分解速度が速くなることがわかった。リグニンは暗い林床では一般に微生物による落葉分解を遅くすることが知られている。しかし本研究の結果から,リグニンが落葉分解に及ぼす効果は光環境によって異なることがわかった。
これらの結果から,湿潤気候下の森林生態系でも,林冠ギャップ形成や森林施業・土地利用変化に起因する伐採によって落葉の太陽光への暴露量が増加することで,炭素循環が加速する可能性があることがわかったという。
今回の発見は,乾燥・半乾燥地域だけでなく,太陽光が到達する全ての陸域生態系で普遍的に光分解が重要であることを示すもので,将来の地球規模の環境変化に対する生物地球化学サイクルの応答を精度良く予測することに繋がる可能性があるとしている。