東京大学,ファインセラミックスセンター,弘前大学は,ガラスを構成する原子の配位数をナノメートルレベルの高い空間分解能で可視化することに成功した(ニュースリリース)。
ガラスの機能はガラスを構成する原子の周辺環境に強く依存する。ガラスはアモルファス構造を有しており,原子が長周期の構造を有していない。そのため,ガラスの中の原子がどのような状態で存在しているのかは明らかにされていなかった。
これまでのX線や中性子線を用いたアモルファス構造を測定するための手法では,測定試料全体の平均的な情報を得ることはできたが,特定の場所の原子の周りにいくつの原子が存在するのかといった,局所的な配位数を解析することは不可能だった。
今回の研究では,アルミニウムとシリコンで構成されているアルミナシリケートガラスを試料とした。一般的にアルミニウムは6個の酸素に囲まれやすく(配位数=6),シリコンは4個の酸素に囲まれやすい(配位数=4)特性があることが知られている。また,今回の試料のガラスでは,アルミニウムが多い領域とシリコンが多い領域が共存していることがあらかじめ分かっていた。
そのようなガラスから,電子エネルギー損失分光法(EELS)のスペクトルデータを計測した。EELSは透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定される。今回は特に,電子線を走査しながら測定することが可能な走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いてEELSを測定した。
また,測定されたEELSスペクトルは励起状態を反映した形状を有しているため,そのスペクトルの解釈は難しい。そこで,研究グループが開発してきた励起状態を計算するシミュレーション法を利用してEELSスペクトルを解析した。その結果,実験で測定されたスペクトルのなかに,アルミニウムの配位数の情報が含まれていた。
さらに,走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて電子線をガラス上で走査してEELSを測定し,それぞれのスペクトルデータの中にある配位数の情報を調べることで,アルミニウムの配位数のマップを得ることにも成功した。
配位数マップを解析した結果,アルミニウムが多い領域とシリコンが多い領域とではアルミニウムの配位数が異なることが明らかになった。アルミニウムが多い領域ではアルミニウムは6配位だが,シリコンが多い領域ではアルミニウムが4配位を形成していた。本来6配位を形成しやすいアルミニウムが周辺にたくさんいるシリコンの影響を受けたと考えられるという。
今回開発した手法は,アモルファス構造を詳細に理解することができ,ガラス転移現象の解明や,新しいガラス材料の開発を加速できるとしている。