東京大学,理化学研究所,物質・材料研究機構,高エネルギー加速器研究機構(KEK),高輝度光科学研究センターは,磁気スキルミオンのコア部分の直径の変化が配列変化の起源となっていることを見いだした(ニュースリリース)。
次世代メモリの情報担体の候補として注目されている磁気スキルミオンは,数十nm程度の渦状の磁気構造体。磁気スキルミオンはトポロジカル欠陥の一種であり,一度生成されると安定に存在でき,孤立した粒子として扱えることが知られている。
これまで磁気スキルミオンは主に三角格子を組んだ状態で観測されてきたが,最近では試料を急速に冷却すると,準安定状態として磁気スキルミオンを安定化できる温度・磁場範囲が拡大し,スキルミオンの三角格子から正方格子へと配列パターンが変化するという報告がなされている。しかし,この配列変化の起源は明らかになっていない。
研究グループは,磁気スキルミオン格子を生じることが知られているキラル磁性体Cu2OSeO3において,磁気スキルミオン格子の構造が変化する過程を詳しく調べた。まず,Cu2OSeO3の結晶を厚さ800nmに薄くした試料を作製し,軟エックス線を用いた散乱実験を行なった。その結果,試料に外部から作用させる磁場の符号と大きさを変えることで,準安定状態として発現した磁気スキルミオンの三角格子が正方格子へと配列変化することを観測した。
また,散乱実験データの詳細な解析を行ない,磁気スキルミオンの配列変化に先立って,磁気スキルミオンのコア部分の直径が変化していることを見いだした。
次に,磁気スキルミオンの配列変化の起源を調べるため,電子スピンの運動を記述する式を用いて,磁気構造の計算機シミュレーションをした。その結果,外部から与える磁場の符号と大きさを変えていくと磁気スキルミオンの配列変化が起きるという,実験結果をよく再現する結果を得た。
さらに,磁気スキルミオンの配列変化に向けて磁気スキルミオンのコア部分の直径が変化しており,それに伴って隣接する磁気スキルミオンとの境界領域のエネルギー利得が変化していることを明らかにした。
磁気スキルミオンは粒子として扱える一方,内部構造の自由度を持っており,磁気スキルミオン内部の変形が磁気スキルミオン格子の構造変化を引き起こす鍵となっていることが強く示唆されるという。
今回の発見は,磁気スキルミオンのように内部変形の自由度を持つトポロジカル欠陥の集合体がつくる秩序構造を外場制御できる可能性を示唆しており,トポロジカル欠陥が示す新しい物性・現象の開拓につながることが期待されるとしている。