東京大学は,非エルミート性由来の新たな機構により,トポロジカル物質で見られるような端状態が保護できることを理論的に明らかにした(ニュースリリース)。
電子などミクロな世界の振る舞いは量子力学に従う。量子力学のダイナミクスを司るハミルトニアンは,転置と複素共役を同時にとっても不変であるというエルミート性を持ち,それによってエネルギーが保存して実数であることを保証している。
一方,エネルギーや粒子の流出入が存在する非保存系では,ハミルトニアンが実効的にエルミート性を破ることがある。そのようなエルミート性を持たないハミルトニアンで記述される物理系を非エルミート系と呼ぶ。
近年,物質のトポロジーに関する研究が活発に行なわれ,光や音波を制御するメタマテリアルなどへも波及している。メタマテリアルにおいてはエネルギーの流入や散逸が起こり得るが,そのような非エルミート系のトポロジカル端状態には未解明な点が多く残されている。
研究グループは,非エルミート性由来の新たな機構により,トポロジカル物質で見られるような端状態が保護できることを理論的に明らかにした。この保護機構は試料内部(バルク)のトポロジーではなく,表面(エッジ)のトポロジカルな構造を利用している。
これは従来のエルミート系とは大きく異なる性質であり,非エルミート系に特有のバルク・エッジ対応の破れを示唆しているという。また,このような端状態がレーザーの増幅に応用できることを指摘した。
この結果は,エルミート系で成り立つバルク・エッジ対応が,非エルミート系では一般的な機構で破れうることを示唆するという。一方で,この研究で解明した端状態のトポロジーは,非エルミート系の端状態の基本原理を理解する上で大きな一歩となると考えられるという。
さらにこれは,近年注目されつつあるトポロジーに立脚したアクティブマターやメタマテリアルの新しい設計原理を与えるものだとする。特に,研究で提案したレーザーのような,非エルミート性とトポロジーを組み合わせて初めて実現するデバイス設計の指針としても有用となるとしている。